偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

1995年発行のコスプレイヤーもの成年向け同人誌を手に入れたので紹介する

いまや成年向け同人誌における女性キャラクターの人気属性の一つとなった感のある『コスプレイヤー』
この記事を執筆している2021年11月現在、メロンブックス通販の成年向け同人誌での”コスプレイヤー”検索結果は売り切れ品も含めて約160件。*1 これだけ存在すれば立派に一ジャンルを築いているといって過言でないでしょう。

こういった同人誌は2013~2014年ころに発祥があり、2017年くらいから大きく花開いて今に至るというのがこれまでの俺の認識でした。
よしんば知らないさらに古い同人誌があったとしてもせいぜい2000年代後半くらいなのでは、と思っていました。

しかしこの認識を覆す、1990年代に既に存在したという投稿をTwitterで見かけて驚愕。内容が気になりすぎて中古同人誌通販を漁りまくって発見、買ってしまいました。

「よくあるごく普通のアニメファン少女の転落の風景」(サメマロ)

こちらが入手した該当同人誌です。

Twitterには1993年と書いていますが、実際は収録作の初出93年・発行95年でした。

20年前と変わるもの、変わらないもの

一読して驚いたのは、作中のコスを現代のキャラクターに取り替えたら2021年でも余裕で成立するのでは、と思えるくらい2020年代のいまと変わりが無いこと。

まず収録1本目「エスカレーション」(原題「アニメファン少女によくあるごく普通の転落風景」)の展開からして、

衣装とウィッグにこだわるおかげで万年金欠の同人作家兼レイヤーの主人公。

だが即売会会場では主人公の全身総額70万円のキャミイコスよりも、着ただけコスのぽっと出の若いナコルルレイヤーの方がカメコにチヤホヤされてしまう。

ライバル心を燃やすものの先立つものが無い主人公は資金源として壁サークルの神絵師に頼ることに。

しかし神絵師に借金返済をカタにコスプレセックスを強要され続け、ついに発狂してしまった主人公は露出の高すぎる不知火舞コスで会場に現れ、カメコの前であられもない姿をさらす。

その主人公の姿を見て涙を流す着ただけコスの若いナコルルレイヤー。実は彼女がコスプレを始めたきっかけは、初即売会で主人公のクオリティの高いコスプレ姿を見たからだった────

これですからね。

キャミィ・ナコルル・不知火舞といったコスプレ対象のキャラクターを入れ替えれば、もうそれだけで2021年現在発行するコスプレイヤーもの成年向け同人誌のプロットとして全く問題なく成り立ちますよ。
レイヤーの承認欲求、コスプレ・オタクコミュニティの中での男女関係の闇あたりの描写がいまとまったく変わりなく、なんとなくもっと牧歌的な世界だと思っていたのを裏切られて驚きでした。

「コス衣装が汗と精液でドロドロ!! こんなんじゃ明日のイベントで着られないよぉ……」という現代のコスプレイヤーものエロ同人誌で定番の締めの作品もあり。
しかし90年代初頭だと手作りかオーダーメイド衣装だろうから数千円の既製品が売ってる現代とは比べものにならないダメージだったのではないでしょうか……

「厳格な家に育った少女がコスプレを通じて自分を解放する喜び、カメコに撮られて承認欲求を満たす喜び、界隈の男性レイヤーと乱交する性の喜びに目覚めるが、妊娠・身バレでの退学から自殺へ……」という話もあり、この身バレが投稿雑誌経由というのが90年代感がありました。

ストーリーには普遍性があるものの、時代を感じたのは竿役男性の造形。
これが当時なりのチャラい男性像、コスプレコミュニティ・オタクコミュニティの中での遊び人の男性像なのでしょうが、女の子の描写は20年後でも変わらず可愛らしい表現だと思えるのに男たちはだいぶ違和感ありました。2枚目とか俺はちょっと笑っちゃいましたよ。

また、実は本書は「コスプレイヤーものエロ漫画+実写コスプレヌードグラビア」という構成になっており、これも19995年時点ですでにここまで到達していたのか、という驚きがありました。

俺自身が2019年の「艦これオフパコ合同」「コスプレイヤーもの小説&漫画+全年齢コスプレグラビア」合同誌を企画した際にこれは誰もやっていないだろう……と思っていたら既に20年前に存在していたとは……
読みながら「剱岳に初登頂したと思ったら山頂に平安時代の遺物が残されていた」みたいな気分になりましたね……

どの収録作もコスプレ対象のキャラを代えれば2021年でも成り立つくらい普遍性があるものの、少しだけ違うのは「コスプレイヤー」という属性そのものには大した価値が置かれていないところ。
あくまでも同人誌即売会を巡るコスプレイヤー男女のオタクコミュニティの中での性愛のもつれを描いているにすぎません。

近年のコスプレイヤーもの作品で盛り込まれがちな、「コスプレイヤー」という属性そのものに価値を置いている部分は皆無。

ここがこの20年で最も変化したところなのだろう、と読了して思いました。

おまけ:20年間のミッシングリンク

笹松さんの調査により同じく1995年にコスプレイヤーもの同人誌が出ていたことが発掘されました。

Twitterでの反応を見ている限り1993年以前から存在した、他にもあったという声がいくつかあるためどうやら90年代初頭頃からコスプレイヤーもの成人向け同人誌は存在していたようです。
1990年代初頭はおりしもコスプレブームによりコスプレイヤーが激増していた時期であり*2それと軌を一にして同人誌も出てきていたと言うことなのでしょう。
ということはそこから2010年代中頃に盛り上がるまで、およそ20年間のミッシングリンクを埋めるコスプレイヤーもの成年向け同人誌もきっと存在するはず。次はそこを探求してみたいですね。

*1:とらのあな通販でも件数を測定しようと試したものの、成年向け同人誌のみをフィルタできずコスプレ写真集や同人AVも含んでしまうため断念しています

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AC

ついに同人誌の電子書籍化に手を出した

自宅に置いている同人誌があまりに増えすぎてどうやっても収納しきれなくなり、しかも今後のコミケや各種オンリー即売会のたびにどんどん同人誌が増えていくだろうことを鑑み、遂に同人誌の電子化に踏み切りました。

使ったのは未来BOOKの同人誌電子化サービスです。

同人誌電子化 | 未来BOOK | 本の電子化サービス

同人誌は3~5ミリ裁断しスキャンします。
同人誌は本を開いた(見開き)時に、絵やセリフが内側ギリギリまで書いてある場合が多いです。
通常の裁断で同人誌を裁断すると絵切れや文字切れが目立ってしまいます。
3~5ミリで裁断して、1枚1枚はがしながらスキャンする方法を考案しました。
※裁断をなるべく背表紙側で切るようにしますが、印刷が背表紙側に寄っている場合は絵切れが起きる場合がございます。

同人誌電子化 | 未来BOOK | 本の電子化サービス

電子書籍化代行サービスは数あれど、「同人誌」の印刷フォーマットをきちんと考慮しているところはなかなか無かったのでこれが決め手でした。


段ボール箱ひとつ、計121冊を依頼。先方への納品完了から電子化終了まで1ヶ月でした。
300dpiの画像データとしてPDF化されました。

電子化する価値は全文検索が可能になることにあると考えているので、画像化してPDFになっただけでは不十分です。
そこでOCRを行うことにしました。

比較2015' Adobe Acrobat 11のOCR性能の精度検証:透明PDF作成 Clearscan機能や日本語・縦書き入力について:Finereader11, Expressなどの英語OCR、 読取革命 ver. 14, 読んde!!ココ13, e.typist13などの日本語OCRとの比較とおすすめ: 家電批評モノマニア

こちらの記事を参考に、今後もこうやって同人誌の電子化を継続して行っていくだろうことも考慮して、OCR専用ソフトの購入を決めました。

パナソニック 読取革命Ver.15 製品版
パナソニック 読取革命Ver.15 製品版

読取革命で電子化した文章系同人誌を全てOCR。その後にEvernoteに取り込み。
EvernoteGoogle検索を連携させているので、例えば以下の画像のように手持ちの資料系同人誌を資料として活用できるようになりました。


彼女たちは「主人公」に牙をむく -モンスター化する「ヤンデレ」たち-(2008年ヤンデレ作文応募原稿)

電撃 - 『ハーレム天国だと思ったらヤンデレ地獄だった。』最新情報が到着! 美少女たちとのバラ色学園生活が待っている!?【電撃PS特報】

いまやPS3全年齢向けゲームで「ヤンデレ」を売りにした作品が出る時代。

2006年くらいから追いかけ始め、2008年くらいまでは全貌がぎりぎり把握できたので、「ヤンデレ発展の歴史」をまとめたり(萌え属性「ヤンデレ」関連の歴史をまとめてみた - 偏読日記@はてな)それを同人誌に寄稿したり(属性YD Vol03 「一万人のヤンデレ大特集」)していた俺にとって、こうも広がったのかと感慨にふけってしまいます。
2005年に萌え属性の一つとして名付けられ誕生してからもうすぐ10年。10年近く続けばオタクの共通認識になるってことなんでしょう。

そんなことを考えながら以前に書いた「ヤンデレの歴史」テキストを見返していたら、2008年付けの「ヤンデレ」に付いての未公開論考記事を発見。記憶を紐解いてみると、どうやら以下の記事で話題にしたヤンデレ作文&イラストコンクールに応募した際の原稿でした。

応募先のマグマニのサイトが閉鎖していますし、時間も経ったので公開してみます。
時は2008年、いまだ「ヤンデレ」が認知の途上にあるころの論述には、かなり一般化したいま読み返すと新鮮な部分が色々ありますね。

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好みを積極的に開陳することにより周囲からのお勧めの精度を上げるライフハック

先日、Pixivでサンプルを見て気に入って代理購入を頼んでいた同人誌がありまして。
無事に購入してもらったあと、中身をあらためた代理購入者の方が巻末の次回予告についてTwitter「えーぱーくさんが好きそう」などと発言。俺はそれを聞いて素直に受け取るのが楽しみだなと思っていたんですよ。そうしたら、件の発言を見た俺の周りから「『えーぱーくさんが好きそう』ってネタバレ」とか言われてね……

自分でもそんなに複雑な人間だとは思っていませんが、どうも俺の作品的な好みは傍から見ていて非常にわかりやすいらしく。
好みがわかりやすいというのは逆に好きになりそうなものを「お勧め」するのも簡単だと言うこと。どうも長期にわたってブログやTwitterで好きな作品、面白かった作品について熱く語れば語るほどどんどん周りからのお勧めの精度が高くなっているようなのです。
この2〜3年くらいだと「これ好きそう」と教えられた作品の中で大外れというのはほぼなく、とんでもない大当たりだったことは数知れず。一番最近では「ef - a tale of memories.」が大当たりでしたね。見ている途中に精神的に動揺しすぎて熱を出して会社を休んだりしました。


まったく興味の埒外だったSchool Daysをこうやって勧められ、プレイしたら好みすぎて大喜びして恐ろしく長文のレビュー記事を書いたりしていたのが既に2005年。あれから7年、好みを開陳し続けた結果として俺への「お勧め」の精度はさらに上がっている気がしてなりません。

小説の「脳内アフレコ」が出来るようになった


戦闘シーンの際の揚羽の決め口上、

「生体型自律機械の民間自浄駆逐免疫機構青色機関は、あなたを悪性変位と断定し、人類、人工妖精間の相互不和はこれを未然に防ぐため、今より切除を開始します。執刀は末梢抗体(アクアノート)襲名予定、薄羽乃西晒湖ヶ揚羽。目下、臣取りを致します故、自ずから然ずば結びて果てられよ!!」

これが花澤香菜あの声で脳裏に再生されるようになってしまったぜ。ついこの間までISを観ていたので、「スワロウテイル/幼形成熟の終わり」の揚羽の一人称が「ボク」繋がりなのがまたこの想像を誘うね。


「この作品がアニメ化されたら声優は誰々」という予想ネタで皆が盛り上がっているのが昔からよくわからず何が楽しいのだろうと思っていましたが、少しだけその気持ちがわかった気がしますよ。
昔の俺は本当に声優の区別が全く付かなかった、というか違いを全く意識していなかったですからね…… しかし2009年初頭にtorneが俺の家に導入されたのとニコニコ動画での公式配信が急速に進んだのとで、この1年ほどで俺のアニメ視聴環境が急速に改善されて週に数本ペースで定期的にアニメを観るようになったらそこに変化が。個別の声優の識別は一部*1を除いてはあまり出来ないけれど、「○○な感じの声」というくらいの違いは意識できるようになってきました。意識できるようになれば脳内で再生も出来るようになり、おかげで最近は小説を読むときに脳内アフレコのようなことが出来ています。

どんなものでも一定の量をインプットする細かいところの識別が出来るようになるものですね。ここで差違を意識して区別するようになればおそらく個別の声優の識別も出来るようになるのでしょう。
だけど俺は過去に視覚情報からの識別を意識してやり過ぎてちょっと感覚がおかしくなった(あの夏、俺は萌え絵でゲシュタルト崩壊した - 偏読日記@はてな参照)ことがあるので、聴覚でまた同じことが起きたらと思うと恐ろしすぎて今くらいの適当な区別しか出来ない状態でいいや。