いまや成年向け同人誌における女性キャラクターの人気属性の一つとなった感のある『コスプレイヤー』
この記事を執筆している2021年11月現在、メロンブックス通販の成年向け同人誌での”コスプレイヤー”検索結果は売り切れ品も含めて約160件。*1
これだけ存在すれば立派に一ジャンルを築いているといって過言でないでしょう。
こういった同人誌は2013~2014年ころに発祥があり、2017年くらいから大きく花開いて今に至るというのがこれまでの俺の認識でした。
よしんば知らないさらに古い同人誌があったとしてもせいぜい2000年代後半くらいなのでは、と思っていました。
1993年時点ですでにコスプレイヤーオフパコもの同人誌が存在したと知ってびびっている
— 宇古木 蒼 (@a_park) 2021年10月22日
最古の部類では????
しかしこの認識を覆す、1990年代に既に存在したという投稿をTwitterで見かけて驚愕。内容が気になりすぎて中古同人誌通販を漁りまくって発見、買ってしまいました。
「よくあるごく普通のアニメファン少女の転落の風景」(サメマロ)
こちらが入手した該当同人誌です。
Twitterには1993年と書いていますが、実際は収録作の初出93年・発行95年でした。以前投稿した「1993年時点で既に存在したコスプレイヤーもの成人向け同人誌」入手しました……
— 宇古木 蒼 (@a_park) 2021年11月6日
「よくあるごく普通のアニメファン少女の転落の風景」(サメマロ党)
これ、『コスプレイヤーものエロ漫画+実写コスプレグラビア』という構成だったんですね https://t.co/u0OWPgeh4P pic.twitter.com/lDYSKPVDo2
20年前と変わるもの、変わらないもの
一読して驚いたのは、作中のコスを現代のキャラクターに取り替えたら2021年でも余裕で成立するのでは、と思えるくらい2020年代のいまと変わりが無いこと。
まず収録1本目「エスカレーション」(原題「アニメファン少女によくあるごく普通の転落風景」)の展開からして、
衣装とウィッグにこだわるおかげで万年金欠の同人作家兼レイヤーの主人公。
だが即売会会場では主人公の全身総額70万円のキャミイコスよりも、着ただけコスのぽっと出の若いナコルルレイヤーの方がカメコにチヤホヤされてしまう。
ライバル心を燃やすものの先立つものが無い主人公は資金源として壁サークルの神絵師に頼ることに。
しかし神絵師に借金返済をカタにコスプレセックスを強要され続け、ついに発狂してしまった主人公は露出の高すぎる不知火舞コスで会場に現れ、カメコの前であられもない姿をさらす。
その主人公の姿を見て涙を流す着ただけコスの若いナコルルレイヤー。実は彼女がコスプレを始めたきっかけは、初即売会で主人公のクオリティの高いコスプレ姿を見たからだった────
これですからね。
キャミィ・ナコルル・不知火舞といったコスプレ対象のキャラクターを入れ替えれば、もうそれだけで2021年現在発行するコスプレイヤーもの成年向け同人誌のプロットとして全く問題なく成り立ちますよ。
レイヤーの承認欲求、コスプレ・オタクコミュニティの中での男女関係の闇あたりの描写がいまとまったく変わりなく、なんとなくもっと牧歌的な世界だと思っていたのを裏切られて驚きでした。
「コス衣装が汗と精液でドロドロ!! こんなんじゃ明日のイベントで着られないよぉ……」という現代のコスプレイヤーものエロ同人誌で定番の締めの作品もあり。
しかし90年代初頭だと手作りかオーダーメイド衣装だろうから数千円の既製品が売ってる現代とは比べものにならないダメージだったのではないでしょうか……
「厳格な家に育った少女がコスプレを通じて自分を解放する喜び、カメコに撮られて承認欲求を満たす喜び、界隈の男性レイヤーと乱交する性の喜びに目覚めるが、妊娠・身バレでの退学から自殺へ……」という話もあり、この身バレが投稿雑誌経由というのが90年代感がありました。
ストーリーには普遍性があるものの、時代を感じたのは竿役男性の造形。
これが当時なりのチャラい男性像、コスプレコミュニティ・オタクコミュニティの中での遊び人の男性像なのでしょうが、女の子の描写は20年後でも変わらず可愛らしい表現だと思えるのに男たちはだいぶ違和感ありました。2枚目とか俺はちょっと笑っちゃいましたよ。
また、実は本書は「コスプレイヤーものエロ漫画+実写コスプレヌードグラビア」という構成になっており、これも19995年時点ですでにここまで到達していたのか、という驚きがありました。
俺自身が2019年の「艦これオフパコ合同」で「コスプレイヤーもの小説&漫画+全年齢コスプレグラビア」合同誌を企画した際にこれは誰もやっていないだろう……と思っていたら既に20年前に存在していたとは……
読みながら「剱岳に初登頂したと思ったら山頂に平安時代の遺物が残されていた」みたいな気分になりましたね……
どの収録作もコスプレ対象のキャラを代えれば2021年でも成り立つくらい普遍性があるものの、少しだけ違うのは「コスプレイヤー」という属性そのものには大した価値が置かれていないところ。
あくまでも同人誌即売会を巡るコスプレイヤー男女のオタクコミュニティの中での性愛のもつれを描いているにすぎません。
近年のコスプレイヤーもの作品で盛り込まれがちな、「コスプレイヤー」という属性そのものに価値を置いている部分は皆無。
ここがこの20年で最も変化したところなのだろう、と読了して思いました。
おまけ:20年間のミッシングリンク
笹松さんの調査により同じく1995年にコスプレイヤーもの同人誌が出ていたことが発掘されました。
平成ヒトケタの頃からコスプレのスケベはあったよ、とのツイートを見て駿河屋のサイトを端から端まで目を皿のようにしながら購買した資料が届いた…… pic.twitter.com/9G3OG6EO0F
— 笹松しいたけ (@s_sasamatsu) 2021年11月5日
宇古木さんより2年後('95)の資料ですが、このコスプレスケベマンガも「徹夜組にまぎれているコスプレイヤーを『ホテルの部屋あるよ』で誘い出しブチ犯しながらポラロイドカメラ(チェキではない!)でハメ撮りを撮りまくる」という、徹夜組に対する懲悪という切り口は現在でも通用するのではないか……
— 笹松しいたけ (@s_sasamatsu) 2021年11月6日
Twitterでの反応を見ている限り1993年以前から存在した、他にもあったという声がいくつかあるためどうやら90年代初頭頃からコスプレイヤーもの成人向け同人誌は存在していたようです。
1990年代初頭はおりしもコスプレブームによりコスプレイヤーが激増していた時期であり*2それと軌を一にして同人誌も出てきていたと言うことなのでしょう。
ということはそこから2010年代中頃に盛り上がるまで、およそ20年間のミッシングリンクを埋めるコスプレイヤーもの成年向け同人誌もきっと存在するはず。次はそこを探求してみたいですね。
*1:とらのあな通販でも件数を測定しようと試したものの、成年向け同人誌のみをフィルタできずコスプレ写真集や同人AVも含んでしまうため断念しています
*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AC