偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

「海軍設営隊の太平洋戦争―航空基地築城の展開と活躍」

海軍設営隊の太平洋戦争―航空基地築城の展開と活躍 (光人社NF文庫)
海軍設営隊の太平洋戦争―航空基地築城の展開と活躍 (光人社NF文庫)


昭和19年(1944年)初頭にニューギニア西部ソロン基地で飛行場の設営にあたった第二○三施設隊に所属していた筆者による回想録と、日本海軍設営隊に関する広範な資料をまとめたのが本書。。


大発は輸送船に積み込む前にバッテリーを充電しておかないと現地で使えない、出港してから荷役用具の不足に気が付いて航海中に製作、大発用の石油ドラム缶が見つからなくて探したら重油ドラム缶の下の船倉最下部に載せられていた、などなど実体験からくるディティールは部隊の動きを記述する戦史では見えてこない所であり。現地で上陸してから設営隊が飛行場を設営するにあたってどんな作業をこなしているかの具体的な様相についても詳しいです。

とはいえ昭和19年ニューギニア西部ということで、筆者の部隊が上陸して飛行場を設営し始めてからほどなくして米軍の侵攻により飛行場設営任務は中止され、筆者たちの部隊は終戦まで現地自活を送ることになります。なので本書の回想録部分も後ろ半分はずっと現地自活についての記述が続いています。

ここまでだと一個人の体験談の域を出ず、「設営隊」がどんなものかの総説としていまいち足りないところ。
本書の後半はそれを補うように海軍設営隊の沿革と設営隊関連の資料が掲載されています。定員表、編制表、編制装備表から、土木機械を運用する際の作業班の編制や、整地用機械の性能表まで、末期の日本海軍設営隊に関しての様々な資料は前半の筆者の体験談の下りとあわせて読むことで理解が深まりました。

一部隊の指揮官の視点からの体験と、総体としての海軍設営隊の両方について触れられていて良かったです。

戦闘行動・戦闘部隊の観点からの戦史にばかり触れていると、設営隊すなわち飛行場を設営しているうちに現地防衛部隊に組み込まれたり米軍が上陸してきて壊滅したりしている部隊という印象ばかりあって、具体的に何をしているかの理解がなかったので本書は役に立ちました。


また、日本で(=日本海軍設営隊で)土木機械の利用が発達しなかった原因として、「(当時の日本では)労働力は極めて豊富、かつ低廉であり、しかも政治的には、道路事業は失業救済事業の対象と考えられて、機械化は失業救済と利害相反するものとして退けられていたのである」という指摘が興味深かったです。


「戦いの世界史 一万年の軍人たち」

戦いの世界史: 一万年の軍人たち
戦いの世界史: 一万年の軍人たち

人類が「戦争」という行為、現象、場所とどのように向き合ってきたかをあらゆる方向から掘り下げる大著。

本書の内容の幅広さは各章のタイトルを挙げてみればすぐに判るところで、第1章から順に抜き出してみると「1.戦いの相貌 2.敢闘精神 3.歩兵 4.騎兵 5.砲兵 6.戦車 7.損耗人員 8.工兵 9.航空戦力 10.司令官 11.戦争の原動力 12.不正規兵 13.戦争体験」と多岐にわたります。


これらは大別すると以下の二種に別れており、

  • 歩兵、騎兵、砲兵、戦車、工兵、航空戦力、司令官、不正規兵(軍隊の中の役割ごと)
  • 戦いの相貌、戦闘精神、戦争の原動力、損耗人員、戦争体験(戦争と人間の関わり)

「軍隊の中の役割・兵器/兵科の分類」のみならず、「人間が軍隊・戦争とどう関わってきたのか」についても非常に幅広く扱っていることが判ります。まさに「戦いの世界史」のタイトルに恥じません。
戦場の兵士のみならず、彼らと社会の関わりにまで幅を広げた射程の広さには原題が "Soldiers"、邦題の副題が "一万年の軍人たち" となっているのも納得でした。

そして原著は1985年の発行ながら、読んでいて古びた感がまったくせず。俺はとちゅうまでごく最近の本だとばかり思っていました。
これは邦題の副題の通り人類と「戦争」の1万年にわたる付き合いを題材にしているので、たった数十年の変化に揺るぎはしないということなのでしょう。

第7師団創隊59周年・東千歳駐屯地創立60周年記念行事

日本で唯一の機甲師団として名高い陸上自衛隊第7師団。この第7師団の記念行事が行われるとの報に接し、せっかく北海道に住んでいるのに観に行かない手は無い、ということで見物に言ってきました。
……実は去年も同じ行事に行ったものの、寝坊して遅れてしまい装備品展示しか見られなかったんですよね。

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検証 戦争と気象―天気晴朗なれども波高し


検証 戦争と気象―天気晴朗なれども波高し (銀河ウォーセラーズ)

日本海海戦当日の天気図」「真珠湾攻撃当日の天気図」「キスカ島撤収の当日の天気図」「トラファルガー海戦当日の天気図」など、過去の戦場を再現した当時の天気図から語ってみるという観点は非常に面白いです。戦争における天気予報の重要性、戦間期の気象観測・海洋観測の話も俺にとっては初耳の話ばかりでよかったです。
「戦争と気象」と銘打ってはいるものの扱っているのは海戦が多いのは、気象条件がそのまま戦場そのものに影響する海ならでは。

やや日本海軍を賞賛しすぎているところと、1編がとても短く語りきれないところがだいぶ残ってしまっている所が少々残念でした。あくまで本書は「気象の観点から戦史を読み解く」姿勢の入門書、これ以上は自分で調べてね、と言うことなのかもしれません。

「「レアメタル」の太平洋戦争 なぜ日本は金属を戦力化できなかったのか」

「レアメタル」の太平洋戦争: なぜ日本は金属を戦力化できなかったのか
「レアメタル」の太平洋戦争: なぜ日本は金属を戦力化できなかったのか

仮に当時の日本に資源が潤沢にあったとしても、やはり太平洋戦争には負けているだろう。それは「いかに金属を戦力化するか」、つまり「金属で優れた兵器を効率的にたくさん作る」という根本的な戦争の手段において、日本は太刀打ちできなかったからである。
(Amazon商品詳細ページより)

まず始めに言っておきたいのは、本書のレアメタルの~」というタイトルにはだいぶ偽りがあること。レアメタルの話題を扱っていないわけではないものの、どちらかと言えば金属全般を扱う延長としてレアメタルについても語っているという方が正しいです。
「金属利用から見る太平洋戦争」とでもしたほうが内容をきちんと反映しているでしょう。


とはいえ、タイトルが内容を表していない点を除けば非常に面白い本であることは確か。
戦争のタンパク質「銅」、戦争の骨格「鋼」、戦争のビタミン「レアメタル」という各章タイトルは金属が近代の戦争の中で果たす役割をよく表しています。
たとえば銅一つとっても、砲弾・薬莢・軍艦の水圧管・軍艦の電気設備など用途は多岐にわたっており、本書の解説を読むとそんなところにもこの金属が必要なのか、と驚かされることしきりです。
年産7500機から年産10000機へ航空機生産を増産するにあたり工場設備に22~26万トンの鋼が必要だったり、その鋼の生産のために鉄鉱石や石炭を鉱山から運び出すにも鉄道建設でレール用の鋼が必要といったあたりも見えづらい部分。
本書を読んでいると、戦争とはとにかく膨大な量の各種金属を消費する行為なのがよく判ります。

そしてサブタイトル「なぜ日本は金属を戦力化できなかったのか」についてはまことに惨憺たるありさまなのが示され、読んでいて暗い気持ちになることこの上なし。
せっかく鉱脈のある地域を占領してもろくに鉱山を開発できず、鉱山地帯から港まで輸送する鉄道の整備もなく、既に連合国が開発済の鉱山を占領しても生産量がガタ落ち。ようやく生産した鉱石も戦争末期になると輸送船が無いため運べず。
あまりに占領地域の鉱山地帯を利用できていなさすぎて、ほんともう何しに行ったんだという思いがこみ上げてきました。

ようやく本土へ輸送してきた金属資源の利用の非効率さ、陸海軍での資源の奪い合いについても紙面を割いています。
昭和18年11月からの陸海軍それぞれのアルミニウム割当量の調整が昭和19年1月になるまで決着が付かず(最後は陸海軍大臣・参謀総長・軍令部総長の会談に) 結論が出たのに実際に輸入されたアルミニウムの総量が計画量より遥かに少ないので割り当て計画が根本的に破綻なんてくだりはもう目を覆うばかり。


兵器の性能や戦場での部隊行動など判りやすい部分の裏側、大量の金属資源を湯水のように使う行為という観点から太平洋戦争を語る本としてなかなかに面白かったです。
唯一の難点は、いくら何でもそれはこじつけに近いのでは……? と思えてしまうくらい太平洋戦争の全ての事柄を金属に絡めて書いている部分があること。意図的に嘘を書いていることは無いものの、かなり著者の推測が入った記述も多いように感じました。