偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

「天冥の標」最新刊(VIII巻Part1)まで追いついた

天冥の標VIII ジャイアント・アークPART1 (ハヤカワ文庫JA)
天冥の標VIII ジャイアント・アークPART1 (ハヤカワ文庫JA)

かつて六つの勢力があった。 それらは「医師団(リエゾンドクター)」「宇宙軍(リカバラー)」「恋人(プロステテュート)」「亡霊(ダダー)」「石工(メイスン)」「議会(スカウト)」からなり、「救世群(プラクティス)」に抗した。
「救世群」は深く恨んで隠れた。
時は流れ、植民地が始まった――。


かなり前にI巻~III巻を読んで、それ以来続刊を追いかけるのをさぼっている間にVIII巻(上)まで合計8冊も出てしまっていた「天冥の標」シリーズをインドに行っている間に全部読破しました。

紀元前数億年から西暦2800年代までを舞台に、とある宇宙的存在と人類の関わりを歴史を追いながら様々断面から描いていく一大シリーズの本作。
こう書くと、やたらスケールの大きく大上段に構えた物語のように思ってしまいそうですが、しかし本作の特徴はシリーズ個別の巻ごとの単独でのまとまりと完成度の高さにあります。

  • 「西暦2800年代の植民惑星を舞台にした政治闘争(I巻)」
  • 「21世紀初頭の地球を舞台にしたパンデミックSF(II巻)」
  • 「真空に適応するよう人体改造した人類の一派『酸素いらず』の主人公が宇宙海賊を追うスペースオペラ(III巻)」
  • セクサロイドだけが住まう『軌道娼館"ハニカム"』で究極のSEXを追い求めるカップルの物語(IV巻)」
  • 「反抗期の娘に悩まされてる小惑星帯のとある宇宙農家のおっさん(訳ありの過去あり)がトラブルに巻き込まれる(V巻)」
  • 「思考形態が人類とまったく異なる異星人とのファースコンタクトの生み出す悲劇(VI巻)」
  • 「とある小惑星の地下施設に閉じ込められた数万人の子供たちによる宇宙版『蝿の王』または『十五少年漂流記』(VII巻)」

それ一つで十分に単体作品として成立しそうなアイディアを出し惜しみ無く投入していきながらも、これらがきちんと「天冥の標」世界を貫く物語の構成要素になってます。

なにもかもが茫洋としていてつかみ所が無く、急展開したと思ったら作中の問題がまるで解決せず終わってしまうI巻の意味が、II巻以降を読み進めるにつれて解き明かされていくときの楽しみといったら!!
VII巻まで読むとI巻の「真実」がおよそ判明するんですが、そういうことだったのか!! と感動するあまりVIII巻に進む前にいちどI巻に戻って読み直しましたもの。そしてI巻初読の際に首をひねったところがほとんど判るようになっていて、ここまで追いかけてきてよかったと心から思いました。

どの巻も甲乙付けがたいものの、俺は外連味たっぷりの宇宙戦闘が目白押しのIII巻、宇宙農家という地に足に付いたものとシリーズの裏に潜むとある宇宙的存在という対極過ぎるものを一つの話にまとめる手腕の光るV巻が特に好きですね。
1冊まるまるセクサロイドのSEXの話が続くIV巻も、事前に読むのが辛いのなんだの言われているのを目にして覚悟していましたが特に問題は無く。IV巻、確かに表面的には官能描写が延々と続くので官能小説然としていますけど、シリーズの中で人間同士が生殖して子孫を残すことの肉体的・精神的な意味がとてもクローズアップされているので存在は必然ともいえると思っています。


上で引用したTweetの通り、この記事執筆時点(2014年6月末)の最新刊のVIII巻Part1は「天冥の標」シリーズを貫く物語がちょうど一段落し、まさにこれから新展開の始まるところになっています。起承転結なら「起」「承」が終わったところとでも言いますか。
VIII巻Part2は2014年9月と言うことで、ここからどう話を転がしてもう楽しみでなりません。

関連リンク

各巻ごとのあらすじと感想を非常にコンパクトに良くまとめた記事。


天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)天冥の標Ⅳ 機械じかけの子息たち天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河天冥の標6 宿怨 PART1 (ハヤカワ文庫JA)天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)天冥の標 6 宿怨 PART3 (ハヤカワ文庫JA)天冥の標VII 新世界ハーブC (ハヤカワ文庫JA)