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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

宇宙消失

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

SFなんて聞くとまず思い浮かぶのは「長門有希の100冊」(もうこのネタも古いかな)程度には第3世代ヲタの俺ですが、古本屋で見かけて妙に心引かれ購入したこの「宇宙消失」。
で、感想はというと……こいつは凄いや。


暗号化ソフトを用いて素性を隠してクライアントとやり取りし、ハッカーに金を払って得た闇データを昼寝している間にバックグラウンドで解析ソフト走らせて分析、新しい街に赴けば観光案内ソフトに従って街を探索(全て脳内で)
脳神経をコンピュータとして捉え、脳内にインストールされる各種のソフトウェアによって能力を拡張するというのはそれほど目新しいアイディアではありません。
警官崩れの冴えない身分とはいえ一応探偵である主人公がこういった各種ソフトを使いこなして日々を送るのはありでしょう。

が、そういったある種特殊な職業の者だけでなく一般大衆にとっても脳内にソフトウェアをインストールするのが常態となった世界のお話。

「神経モッド」(作中での脳内にインストールするソフトウェアの総称)が大衆化し、ソフトウェアによる意識の拡張により「人生を賭けて追い求める目標」すら後付で設定できるようになった世の中で人の自由意志なんてものに意味があるのか問いかけます。
インストールされた人物に「インストールされた」という認識を抱かせながらも、全く疑念を起こさせずに特定の対象への忠誠心を喚起させる「忠誠モッド」なんてモノも登場し、序盤はそれだけで一本の作品として成り立ってしまいそうです。


で、こういったサイバーでいながらも妙に地に足の着いた序盤から中盤の未来世界描写だけで十分面白いのですが、中盤以降の展開が予想と違いすぎて驚くばかり。

量子力学における「観測」問題をここまで真剣に扱い、しかもそれにそれなりの答えを用意し、さらにストーリーの根源となっている「宇宙消失」の真実と最終的にリンクさせてくるのは流石。
解説しづらい科学的概念を弄ぶのではなく、あくまでも主人公の個人的問題に帰着させてある種強引とも言える方法でお話を進めていく手法には感心してしまいました。


中盤以降の主人公を襲う驚くべき事態について詳述することは避けますが、訳者解説の「シュレーディンガーの猫の身にもなってみろ!」(参考:シュレーディンガーの猫 - Wikipedia)というタイトルが全てを表していると思いました。
そりゃあんた観測者にとっては「生きてるか死んでるか判らない状態」でも、当の猫には猫なりの意識がある筈だものなぁ。