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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

あなたの人生の物語

感想

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

何気なく書店で手に取ったこの「あなたの人生の物語」、コイツは最高の当りでした。

著者の「架空の世界観」を構築する手腕の上手さが半端ではありません。


いきなり1本目から天に届いてしまったバベルの塔ネタですからね。
とことん科学的な記述で語られる「バベルの塔」の不思議な現実味にはなんとも妙な味わいがあります。


他にも産業革命ならぬ自動機械(オートマタ)革命のさなかの19世紀イギリスを舞台に生命科学ネタの「72文字」、日常的に起こる「天使の光臨」が自然現象の如く扱われ、神や天国・地獄が実在する現代社会を描く「地獄とは神の不在なり」など、作品ごとに全く方向性の違う独自の架空世界を扱っておりながらも共通するのは不思議なまでの説得力。

どれも短編なので詳細な世界観の説明がされる訳ではないのですが、ちょっとした描写の中にも裏にはしっかりと強度のある「架空世界」が構築されているのがにじみ出てくるつくりは流石としか言いようがありません。


そして人類とは全く異なる思考形態をもつ異星人との交流を通じ、彼らの思考を身につけてしまったが為に余人には見えない世界を体験することになる主人公、という「あなたの人生の物語」がとにかく良かった。
まず、異星人の思考・言語・文字等々のあまりにも人類の常識からかけ離れたそれをきちんと設定・描写できているというのがまず一つ。「文字」の説明などはそれだけで面白いです。

更に現在進行形で進む異星人との交渉と、その合間に挿入される過去とも未来とも付かないシーンの意味がラストで理解できたときには心の底から震える思いでした。「順番なんて意味がない」ってそういう事だったのね。
物語の扱うテーマと構成が完全に一致するあのラストの瞬間の衝撃にはたまらないものがありました。