偏読日記@はてな

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有力チームが流出する鳥人間コンテストの未来は何処にあるのか?

30年以上続く民放人気番組「鳥人間コンテスト選手権大会」の今夏の大会に、何度も優勝している日本大チームが参加せず、常連の早稲田大チームが希望と違う部門に出ることになった。応募締め切り後、主催者が急に新たな条件を出したことが理由だ。大会は開かれるが、学生側からは不満が聞かれる。

鳥人間コンテスト、あの日大不出場 TV局の条件のめず


元記事のWeb魚拓:(cache) asahi.com:鳥人間コンテスト、あの日大不出場 TV局の条件のめず - 社会


遂に来たか、というのが正直な感想。

鳥人間コンテストには書類選考があり、琵琶湖で飛ばせるのはおよそ2倍程度の倍率のそれを突破したチームだけだというのは余り一般に知られていない事実です。
ここでの「様々な条件」というのは、つまり「TV番組として見せやすいようにしろ」という事なのではないかと。あくまでも推測ですが、後述の早稲田大の記述とあわせると短時間で終わってかつ華のあるタイムトライアル部門への移動を要請されたのではないでしょうか。

飛距離で歴代最高の約34.6キロの記録を持ち、2回目から毎年のように参加する日本大学理工学部航空研究会は、今年も飛距離部門で申し込んだが、4月にあった書類審査に合格しなかった。  大会事務局は、日大側に様々な条件を出したが、受けてもらえなかったと説明。「日大の機体が悪いわけではない」とも話す。

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この辺りの記述もそれを裏付けます。「日大の機体が悪いわけではない」って、さも条件に納得しなかった日大チームが悪いみたいな記述ですね。どの面下げてそんな事言うかな。

飛距離部門に応募した早稲田大チームには4月末、時間部門で合格したと通知があった。事前に変更の打診はなかった。事務局に尋ねると、時間部門に出るより選択肢はないと説明された。より長距離を飛べる機体作りに昨夏から取り組んでおり、対応を学生同士で話し合ったが、活動実績を示すことが大切だと、妥協する形で参加を決めた。

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ここでの「時間部門」とは1km往復の所要時間を競うタイムトライアル部門の別称です。
非常にぼかして書かれていますが、要は読売テレビの心証を損ねたくないという事なんですよね。
ちなみに早稲田大の決定を非難するつもりは全くありません。もし俺の現役時代にこういった事態が起こったとしても、きっと部門を変えて出場する事に賛成したでしょう。
それくらい「書類選考で落とされる」事への恐れは根強いのです。次年度以降の書類選考で落とされる事を気にせず日大のような思い切った事が出来るチームは日本に3〜4つ*1程度ではないでしょうか。

そもそも書類選考の合格基準が非常に曖昧で、「安全で長距離を飛ぶ飛行機」を作っただけでは一部有力チーム以外は選考をクリアできるか判らないのがこういった「配慮」をしてしまう背景にあるのですよね。「次年度以降の書類選考に響くから、出場が決まってからの自己都合で棄権はしない方が良い」なんて事がまことしやかに語られるのが日本の鳥人間界なのです。


が、その背景には視聴者の「長距離を飛ぶのを長々と見せられてもつまらない」と言う意見があったりします。
これに関しては2年前に 視聴者の視線を忘れてしまった鳥人間コンテスト - 偏読日記@はてな で書いていますが、「飛行機の完成度を競う競技大会」として捉えている参加者側とあくまでもバラエティー番組として捉えている視聴者の間で決定的な断絶が生まれてしまっています。「発進直後に墜落するのを見るのが面白い」なんて視点で見られているというのは作る側からすると非常に悲しいことですけど、どうもそういった意見の方が多数派のようなのですよね。
そして運営の読売テレビも、バラエティーとして始まった番組の運営方針をいつまでも引きずり続けているため運営側と出場者の側の意識にも断絶が生まれつつあります。


以前から裏でひっそりと育っていたこの問題が、一気に噴出したのが今回の日大の書類選考落ちという事態なのではないでしょうか。今年は日大以外の有力チームは通常どおり出場するようですが、場合によっては次年度以降さらなる波乱が起こる可能性もあります。



とはいえ、あの巨大な発進プラットフォームの建設、救助体制の確立、漁業補償や各種警備等、あれだけの規模の大会を運営できるのはTV局だけだというのもまた事実。
自分達だけで純粋な「人力飛行機競技会」を開催するなんてのは夢のまた夢である以上、どこかで妥協点を探していかなければならないのは確かです。

出場者達が飛行機としての完成度を上げる方向に進むのはもう止めようがない以上、番組の方向性を修正するか、少なくとも書類選考をもう少し透明化して欲しいと願うばかりです。


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鳥人間コンテスト出てきました - 偏読日記@はてな
むかし自分で鳥コンに出場した際のレポート。
現役を離れて久しい俺が参加者の代表のように意見を書いてしまうのはどうかと自分でも思いますけど、それでも書かずにはいられませんでした。何だかんだいって引退してから4年近くたっても未だに強烈な思い入れがあるみたいです。

*1:東工大Meister 東北大Windnouts YAMAHAエアロセプシーあたり