偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

少年は「普通」をめざす - 「AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜」

「現象界人?」
「情報体は対象の論理法則をクラックする事で物理的に干渉する。プロテクトを持たない現象界人には防ぐ事ができない」
「何いってんだかわかんねーよ」
実はだいたい理解できていた。でも理解が早すぎるとアレなんで戸惑うフリをしていた。

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)


いわゆるラノベのお約束を逆手に取ったメタ作品……と思いきや、その実はストレートな少年が過去を乗り越えるお話でした。その過去が「フィクション作品にはまりすぎて、その手の妄想キャラを日常生活で演じるようになる」と言うあまりにも痛々しいものであったことをのぞけば。

過去を捨て「高校デビュー」に成功した主人公の前に現れた異世界の魔女(風)のヒロイン、彼女は実は入学以来登校してきた事の無い斜め前の机クラスメイトだった!! というのはいかにもですけれど、本作のヒロイン佐藤良子の社会や学校での扱われ方は単なる「制服を着ないでコスプレしてくる痛い娘」 無表情系ラノベヒロインのテンプレ通りのその喋りは、現実の高校生活ではただのコミュニケーション不全で意思疎通のできない人。

その手の作品に現れる要素が「普通の高校生活」に交じってきたときに生じる強烈な違和感を容赦なく描く前半は、典型的ラノベのパロディとして逆に面白いです。そこで描かれる、高校のクラスという狭い空間での人付き合いの閉塞感と、そこに交じった異物である良子への虐めの描写もなかなか見事。


しかし、この作品はそれだけで終わるものではなく。絶妙にファンタジーな部分を交え、主人公が過去の自分を乗り越える物語にしてしまうのです。
主人公や良子、その他のアレなクラスメイト達の奇行を笑顔で受け入れる第二のヒロイン子鳩さんなんて地味だけど最高にファンタジーですよ。可愛いさは全てを許すってか。
まずあのクラスの構成からしておかしいですしね。なんであんな変な奴ばかり集まってるんだ。

そんな中で、過去を嫌うあまり昔の自分の鏡写しである良子(や、彼女よりレベルは下がるけど同種の妄想に生きるクラスメイト達)を忌避していた主人公が、良子を「日常に引き戻す」ために過去の自分を肯定する。
ラストの吹っ切れてしまった彼の嫌な意味での爽やかさは、中盤以降の陰々滅々とした展開を吹き飛ばす素晴らしいものでした。まさか「痛々しい過去」をああ使ってくるとはなぁ。



……と、簡単に感想を書いてみましたが、俺にとってこの「AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜」に関する最大の思いでは、物語の内容よりも読了直後の俺の身の回りに起こった出来事だったり。
病院の待合室で本作を読んでいて、終盤の息もつかせぬ展開を一気に読み終え、あとがき前に一息ついて周りを見回したらさっきまで誰も座っていなかったはずの隣の椅子にピンクでレースでフリルの甘ロリちゃんが座っていたのを発見したときの衝撃と言ったら無いですよ。忍び込んだ夜の高校の校舎で青いローブの魔女に出会うのと同じくらいの衝撃でした。
正直、あの瞬間に甘ロリちゃんから邪気眼な台詞を投げかけられていたら俺は落ちてたと思います。それくらい驚いてたよ。