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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

わたしの毎日が、宇宙につながっている── - 「妙なる技の乙女たち」

感想

西暦2050年。シンガポール沖、リンガ諸島。
軌道エレベーターの建設地として選ばれたそこには、宇宙産業を皮切りにありとあらゆる企業が進出し、巨大な都市が出現していた。
駆け出しの工業デザイナー、ボートタクシーの女艇長、熱帯雨林を売りさばく不動産業者、ぐうたら保育士、軌道エレベーターのキャビンアテンダント、彫刻家、そして軌道エレベーター建設企業の若手社員。
軌道エレベーターのふもとの街で、自らの「技」で世を渡る女たちが織りなす、7つの物語。


妙なる技の乙女たち
妙なる技の乙女たち


日常の果てしない拡大、佐藤大輔風に表現するなら「軌道基地の中で米を炊いているような話」が大好きな俺の心を、本作はまさに直撃。軌道エレベーターが実用化され、大気圏外で居住・労働する人間が40万人を
人類あるところ常に変わらないであろう保育士の仕事が、ちょっとしたこと非日常から宇宙開発の先端とつながる第四話「ハセット・デイケア保育日誌」が俺は一番好きです。
ワーキングホリデーでリンガを訪れてそのまま居着いてしまった主人公のいい意味でのダメっぷりに親近が湧くというのもありますけど、そんなこと関係なしに第四話のまとめ方は心が震えましたよ。「The Roids」かあ。


働く女性の物語として純粋に面白いのはもちろんのこと、どの話でも背景となる「軌道エレベーターの街」というSF要素と無理なく融合しているところが実に素敵です。
そして同じ街を舞台にしていると言うことで、少しずつ各話に繋がりがあるのも物語に深みを与えます。一話の新人工業デザイナーが6話でいっぱしの者に成長していたり、二話で登場するボートタクシーや民間軍事会社がそこかしこで背景として顔を出したり。
この流れで最終話でそれまでのエピソードが全てつながる事を期待していましたが、流石に主人公たちの社会的立場が異なりすぎるのでそれはありませんでした。


唯一苦しいところは、あまりにも詰め込みすぎてあらすじを読まされているような気分になってくる最終話。テーマとしては中編、よしんば長編だって書けそうなくらい魅力的なものを扱いつつも短編集の中の一編である苦しさ、他の話に比べてやたらと展開が早く戸惑ってしまいます。
内容はまさに日常の果てしない拡大、宇宙で稲を育ているような話(比喩じゃないです)なので本作のラストを締めくくるにふさわしいとはいえ、もう少しだけ尺を長くしてあの物語を見てみたかったです。