偏読日記@はてな

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軍人だけど、紳士です - 「第二次世界大戦紳士録」

第二次世界大戦紳士録
第二次世界大戦紳士録


「潔癖症なのにペットのガチョウを溺愛する将軍」 「運動神経に難がありしょっちゅう転んで負傷する眼鏡っ子参謀」 「出自の華やかさと裏腹に潜水艦を愛した華族軍人」 「『戦場で急に盲腸になったら嫌だから』と痛くもない盲腸を摘出してしまった航空戦隊司令」 「あまりにも背が高すぎて艦内での行動に支障をきたす艦長」…………


「紳士録」の名の通り、ドイツ軍・日本軍を中心に第二次世界大戦前後の各国の有名士官将官達の人となりをまとめたのが本書。が、ただ彼らの経歴・戦歴をまとめてイラストで彩っただけのような本とはひと味もふた味も異なります。


経歴を紹介することより、彼らの人物・逸話を紹介することに力を注いだ構成はとにかく面白いの一言。
歴史に名を残した軍人達もプライベートでは一人の人間という、考えるまでもなく当然の話を改めて実感させてくれます。この記事の冒頭で冒頭で取り上げたのは全て本書から抜き出してきた逸話です。
他にも紹介したいものが大量にあったものの短くまとめられなかったりで断念。沖縄第32軍司令部の参謀達などもそれぞれ実に魅力的に描かれていて集団としてとても楽しいのですが、実際に自分が彼らの下で働くのはちょっと嫌だ。


資料となるべく正確に無味乾燥に経歴を記述するのではなく、対象となる「紳士」たちの人となりをユーモラスに紹介することにひたすら徹している(もちろん嘘を書いているわけではありません)のはこの種の書籍では珍しい目の付け所です。あくまでも興味を持つ入口、本書で知ってより詳しく調べていってほしいと言うことなのでしょう。
なので掲載されている軍人達を知っていても知らなくても楽しめます。俺は、「あの人にこんな裏話が……」と読めたのが半分、残りの半分は「こんなに面白い逸話を持つ人がいたのか!!」と読んでいて、本書で初めて知って興味を持った軍人も居るくらいです。これはひとえにその語り口の巧さによるものなのでしょう。
そして、その巧さを実現する桁外れの情報密度にも恐れ入るころです。1人につきA5版を横にしたのとほぼ等程度のサイズしか使っていないのに、短いという印象を受けることはまったくないのは驚きでした。


それにしても、紹介されている日本軍人達の最期がみんな自決・沈没する艦と運命を共にする・銃殺刑等々の畳の上で死ねなかった人達ばかりで何ともやるせなくなってきます。ロマン溢れる日本人好みの「逸話」としてはその方が扱いやすいというのもあるのでしょうが……
そんな中で無事に戦争を生き抜き、戦後に山本リンダのファンクラブに入ったり自ら長唄のコンサートを開いたりしている古村啓蔵(二水戦司令)が異色すぎて思わず笑ってしまったり。なんですかそのバイタリティは。