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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

密林の砲兵、かく戦えり - 「ニューギニア砲兵隊戦記」

ニューギニア砲兵隊戦記―東部ニューギニア歓喜嶺の死闘
ニューギニア砲兵隊戦記―東部ニューギニア歓喜嶺の死闘

「歩兵から見た戦争」「水兵から見た戦争」「パイロットから見た戦争」はフィクション・ノンフィクション共に溢れてるけど、近代戦における「砲兵から見た戦争」がいったいどんな風景になるのかちょっと知りたい

http://twitter.com/a_park/status/1516354278

今年の4月、Twitterで俺がふと漏らしたこの呟きに対して「砲兵から見た戦争」の好例として教えてもらった本書。
読んでみれば「砲兵の目から見た戦争」、すなわち最前線の砲兵の日常風景を知れただけではなく、「優秀な指揮官が持ち前の頭脳でもって逆境を乗り切る話」としても非常に面白い本でした。


自らが率いる砲兵中隊の編制とその運営に始まり、南方への移動の船上から現地についてまで様々な創意工夫を繰り出して問題を解決していくさまは読んでいて痛快な限り。
自伝に近い事を差し引いても、この著者が相当に頭の切れる指揮官であることは疑いないと思います。
制空権を完全に奪われたなか、1個中隊たった2門の砲でオーストラリア軍砲兵連隊とやり合い撤退まで砲を完全に喪わなかった(1門は途中で喪失)という実績だけで十分なのではないかと。


……だがそれ故に、「個人の創意工夫」ではどうにもならないことが厳然と存在するのが浮き彫りになるのですけれど。


いくら陣地構築を工夫しようが砲の数が少ないのはどうにもなりませんし、どんなに補給に気を配り砲弾の蓄積に努めようが元々の補給が少ないので限界はあり。
ニューギニアにおける戦闘中、一回しか現地の地図を見たことがなかった」(つまり地図無しで戦っていた)それ故に地形の把握には気を配ったなんて平然と書かれていてどう反応していいのか困りました。地図無し・事前情報無し前線までの100kmを行軍させるってありなんですか……?


また、読んでいて砲兵が「数学と物理学で戦う」兵科だというのを実感することしきり。

  • 1メートル四方に1つ砲弾の破片を散布できるだけの密度で射撃が出来ればその場に居る敵を全滅させることが出来る
  • 中隊の能力からすると上記の密度を実現するには2ヘクタールに3分間の集中射撃が必要
  • 対象となる地域は12ヘクタールなので6回の集中射撃が必要なため、必要砲弾数は378発(計算式は省略)
  • しかし実際は100発弱しか打ち込んでいないので敵に与えた損害は10%くらいではないか

筆者が上官から砲撃の成果を訊ねられた際の返答がこれで、精神論やら何やらの入り込む余地が全くない冷静なさまに驚いてしまいました。
当たり前の話といえばそうなんですが、何もかもを弾道学に支配されるからこその考え方は俺にはとても新鮮でした。


本書がとても面白かったので、他の地域・時代における「砲兵の戦争」についても類書を探して読んでみたいと思っているところ。ニューギニアの密林で2門だけを運用するというどちらかと言えば特殊な状況での話だったので、もっと大規模な砲兵戦についても読んでみたいです。