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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

将軍は「産む機械」 - 大奥(5)

「何が将軍だ!!
 若い男たちを悦ばせるために 私がどれほどのことを床の中で覚えてきたのかそなたに分かるか?


 将軍というのはな 岡場所で身体を売る男たちよりもっともっと卑しい女のことじゃ」


大奥 第5巻


「岡場所で身体を売るのは女性なのでは?」と疑問を持った方も居ましょうが、上の台詞引用は誤植では決してありません。もちろん「将軍」が女なのだって誤記などではありません。


と言うわけで、男女逆転江戸社会物語の「大奥」もはや5巻。今回は綱吉の治世の後半です。


誰よりも高みに立つ最高権力者でありながら、世継ぎの誕生のために大奥の男たちに夜ごと抱かれる「産む機械」でもあるところ。
女将軍達の立たされる過酷な立ち位置と、彼女たちがそれにどう抗って/流されて行くかというのが本作の肝でしょう。


徳川幕府という体制存続のために自分を殺した家光、世事と関わることを避け幼女の頃の恋心にすがった家綱と来て、4〜5巻で描かれる綱吉はまさに生まれながらの女将軍。
享楽的に自らの立場とそこからくる万能感を楽しむ彼女は「大奥」にこれまで登場した女将軍達とはまたひと味違ったものがあります。
しかし5巻では登場した頃のそんな無邪気さの裏に妖艶さを秘めた姿は影を潜め、そこにあるのは「産む機械」として酷使される人生に疲れた一人の女。
5巻終盤の絶望に冒されたあげくの暴君ぶりは、作中で家光・家綱の辿った「女将軍」という哀しい枠から彼女も逃げられなかった事を如実に語っていてやるせないです。

だからこそ、ラストで登場する幼少時代の吉宗の自らの女性性にこだわらない気っぷのいい性格が彼女が今後この社会に起こすであろう改革を強烈に予感させるわけで。
1巻で現状に疑問を持つ改革者として登場した将軍吉宗の描写とここに来てようやく物語が繋がりましたね。


それにしても、「男性だけが罹患する致死率の高い流行病により男女の人口比が崩壊」という一点から初めて女性上位の江戸武家社会という一見するとあり得そうにないものを成立させてしまっているよしながふみの手腕は何度見ても感心してしまいます。
一般社会の描写を最低限に抑え、大奥での将軍と男たちの関係に注目して描いているせいもありましょうが、細かい嘘を積み上げた結果として大きな嘘をつく手腕は見事です。

かなり丁寧に歴史的事実を拾っている、言い換えれば筋書きが歴史的事実そのままであるのに男女を入れ替えただけでこれほど世界が違って見えるのは、「産ませる性」である男と「産む性」である女の特性の違いを巧く物語に落とし込んでいるからなんでしょう。


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これまでに俺が書いた「大奥」感想記事。ちょうど家光編が完結した1〜3巻が揃ったところで読み始めることが出来たのは幸運でしたよ。