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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

秋葉原発タイムマシンが、世界を変える - 「Steins;Gate」総評

Steins;Gate
Steins;Gate

「ねぇ、相対性理論って、とてもロマンチックで……   とても、切ないものだね……」

幾度もの「やり直し」を経て、俺はいま、ここに居る。そう、『シュタインズゲート』に──


というわけで、延べ2週間近くにわたってプレイし続けていた「Steins;Gate」もようやく終了。
プレイ完了からだいぶ経って気持ちが落ち着いてきたので感想を書いてみます。

ちなみにTwitterへ投稿していたプレイ中の感想発言まとめはこちら:「Steins;Gate」実況Postまとめ - 偏読日記@ついったー支部


ひときわ際立つ展開/構成の巧さ


プレイ開始時の記事(「Steins;Gate」プレイ開始 - 偏読日記@はてな)からずっと書いてきているので今さらとはいえ、本作の展開の巧さについてはそれでも触れざる得ないです。あれだけでエンタメとして一級品。
各章ごとにきちんと起承転結を付け、その上で引きの巧さで先の展開への興味を失わせません。プレイヤーを飽きさせない秀逸な構成は連続ドラマなんかを彷彿とさせます。
体験版として公開されている1章だけでタイムマシンが完成してしまう良い意味での展開の早さも巧いところ。

この「秋葉原の裏通りのビル2階で普通のオタク大学生&高校生たちの手作り感の溢れるタイムマシン製作」という序盤の時点できちんと面白いからこそ、中盤以降の急転直下する展開が生きているんだと思います。


最終目標のために段階的に小さい目標をこなしていく中盤以降の構成も良くできていて、こまめに達成感を得させてプレイヤーを物語への没入から離しません。
もちろん何もかもが上手くいくわけではなく、ひとまずの目標を達成して満足していたところで主人公たちとプレイヤーを絶望にたたき落とす某シーンは声優の演技の壮絶さとあいまって背筋に寒気が走りましたよ。
「盛り上げて落とす」の教科書のような、まさに計算された巧さ。


その意味で、目標が天下り的に唐突にやってくるように感じた最終章は少しだけ気に入らなかったり。
繰り返しの末に辿り着いた希望からもう一度たたき落とされ、こんどこそもう後がないと思った真の絶望からの再起という点ではすばらしく燃えるんですけどね。
中盤から終盤までの主人公の苦闘を思うと、最終的解決にもっていくところで若干タメが足りないような気がしてならないのです。
とはいえ、そんな最終的解決を経て最期に待つすがすがしい終わりには本当にほっとしました。展開そのものはひねったところが全くないハッピーエンドとはいえ、そこまでの悪戦苦闘をきちんと描いてプレイヤーに感情移入させるからこそ引き立つのです。


自意識と中二病と「Steins;Gate」

「俺は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院狂真! 世界を騙すなど、造作もない!」

「これまでの自分を否定したくないの。例え失敗ばかりだったとしても、それを含めて今の自分があるんだから」

「狂気のマッドサイエンティスト」(同義語反復)を自称し、電源の入っていない携帯電話を手に街中で一人芝居をし、都合が悪くなると右手を押さえて「くそ…… またうずき出しやがった…… 死にたくなければ俺と離れろ!!」とやって周囲から呆れられ。 
これが主人公視点で展開されるのはあまりに強烈すぎ、プレイ開始当初はちょっと辛いものがありました。だからそこでなぜ唐突に奇行に走る……
そんな「自分は特別な力を持った人間で、世界を裏から支配する『機関』に追われている」という妄想の元に行動していた主人公も、所詮はどこにでも居る大学1年生。いざ世界を左右するような特別な力を得て陰謀に巻き込まれる立場に実際になってみれば、当然考えの甘さを突きつけられるわけです。


ここで力あるものの責任を自覚してまっとうな大人になり、昔の自分の行動を痛々しいものだと振り返り……だけで終わらないのには感心したところ。
痛々しい奴だったことを認めた上で、その中に潜む行動力を良いものとしていくとでもいいますか。「自分は特別な人間」という幼稚な自意識がいったん打ち砕かれ、その中から蘇ってくる話。

本作を象徴する台詞である「これまでの自分を否定したくないの」というメインヒロイン紅莉栖の言葉は、失敗を「なかったことに」して済ませてはいけないという物語上の結論にかかってくる以外に「痛々しい昔の自分を受け入れる」という意味にも取れるんじゃないかなと思いました。


Steins;Gateの椎名まゆりは天然かわいい / 牧瀬紅莉栖は天才かわいい


本作のメインヒロインその1である椎名まゆり(愛称まゆしぃ)。俺は最初、この娘があまり好きではありませんでした。
おっとりした喋り方(「まゆしぃは 〜〜 なのです」)と、どこかピントのずれた発言の数々。16歳(高2)だとは思えない幼い行動。 
行動の面では俺が好感を抱く要素が一つもない、それどころかいらつきすらしていました。それなのに、序盤の皆でのタイムマシン製作シーンを経て中盤に至ればそこにはまゆしぃを救おうと悪戦苦闘する主人公と完全にシンクロしている俺が。


「俺は!! 絶対に!! お前を、助けてやる!!」(中盤をプレイ中の俺) 冗談でなく本当にこんな気分でしたよ。


脳天気だけどバカじゃない、子供っぽいけれど幼稚じゃない、というかなり絶妙な位置にいるんですよね。そして何があろうと変わらず主人公を無邪気に慕い信じるその健気さが、プレイヤーにすら守ってやりたいと思わせるのです。
主人公が「あいつの事は大切に思っている」「あいつは守ってやらないと」と語ってもプレイヤーがその境地に達していないと物語の内容と受け手の心境が離れてしまい興ざめるところですが、本作ではそんな事は全くありませんでした。
「まゆりを悲劇的な運命から救う」という物語上の目標をプレイヤーにきちんと納得させる人物造形と展開が、より一層の物語への同調を誘うのです。


そして、まゆりと並んで物語的に重要な位置にいるもう一人のメインヒロイン紅莉栖が、「やり直し」を繰り返す主人公と一番深く関わる鏡合わせの立場にいるのがまた面白いです。
まゆりが平和な日常の象徴なら、紅莉栖はタイムトラベルという非日常の象徴。
「飛び級でアメリカの大学を卒業した脳科学と物理学に堪能な天才少女」という紅莉栖の人物設定は主人公を助ける存在としてうってつけです。
一人きりの闘いに疲弊し絶望した主人公が、秋葉原UDX前の歩道橋で彼女から差し伸べられた手を取ったとき、俺は主人公と一緒に本当にほっとしていました。
常に落ち着き払って理性的な天才という、一歩間違えれば単に嫌味な奴に落ちそうな所をぎりぎりで抑えているのも魅力な所ですね。


ちなみに紅莉栖がいつでも冷静沈着な「助手」のままで居るか、それ以上の存在になるかどうかはメールの返信次第。上手く進めていくと7章くらいからやたらいじらしいメールを送ってくるようになってニヤニヤしてました。メールデレとでも言えばいいのか、あれは実にかわいい。


「フォーントリガーシステム」の生み出す主人公との一体感


本作の特色としてあげられる「フォーントリガーシステム」は、一言で説明すれば作中で携帯電話を使えるというもの。
従来の選択肢による物語の変化を携帯電話に置き換えたもの、単にそれだけとも言えます。
だが、このシステムが従来の「選択肢」と異なるところが一つだけあります。携帯電話の出し入れがほぼプレイヤーに委ねられているところ。


取っ組み合いで両手がふさがっている等の明らかに不可能な場合を除き、どんなときでも状況に関わらず携帯をいじれます。まさに現代っ子。
このフォーントリガーシステムのおかげでゲーム的な選択肢が無いため、常に主人公視点であるのがとても感情移入を促しています。
息を潜めて隠れていなければならない時に限って電話がかかってくるし、深刻な相談をしている最中に届いたメールを相談を中断して開いてみればただの雑談メールだったり。目の前で自分へ話しかけているのを無視してメールに返信して嫌われたりだってできます。


そして主人公が物語中で迫られる重大な決断も、もちろん携帯電話を介して行うことになります。
行動一つで世界が大きく変化するような場面でも「選択肢」が勝手に出てくることはありません。メールを送る/電話をかける為に主人公が携帯電話を出すのは、あくまでプレイヤー自身の操作の結果。


あくまでも、プレイヤーが、自分の意志で携帯電話を出さなければならないのです。


操作としてはたった一回ボタンを押すだけでも、プレイヤーが能動的に行動しなければならない事が結果的に選択の重さをそのまま突きつけてきます。電話をかける/メールを送るのを少しでもためらうことは、すなわち覚悟が出来ていないと言うこと。
これが「電話をかける」「電話をかけない」という選択肢二つから選ぶだけなら、あの瞬間の重さは無かったと思います。


どこか1点が突出した「傑作」ではなく、平均的に優れた「秀作」


未来からのメッセージ。繰り返しによる悲劇の回避。過去改変による「現在」の消滅と、改変前の記憶を持ち続けることによる孤独。
要素だけを取り出してしまえば、古今の時間SF作品のどこかで使われているようなものばかりかもしれません。

しかし、細かく張り巡らせた伏線の妙と展開の巧さ、主人公への感情移入を誘うギミックが単なるどこかで見た要素の寄せ集めでは終わらせていないのです。
まさに「良くできている」という形容がふさわしい。駄目な部分があるけれどそれを覆い隠すほどに優れた1点が、という作品ではなく隅々まで心の行き届いた秀作と言った方がよいでしょう。
体裁としては一応ギャルゲーの範疇に入るのでしょうが、それ以前に時間SFとして、読み物として面白かったです。


関連リンク

本作における「救うこと」の無自覚さについての突っ込んだ記事。俺はプレイ中、完全に主人公に感情移入しきった状態だったためにここまで考えが全く及びませんでした……

一人称視点とフォーントリガーシステムによる主人公との一体感と、それによる感情移入について。


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「Steins;Gate」プレイ途中感想 - 偏読日記@はてな
プレイ途中に書いていた感想記事。それにしても開始当時からまゆしぃの事ばかり言及していて俺はどんだけ好きなんだと言う話ですよ。