偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

"まんまんちゃん”は、全てを見守る - 「まんまんちゃん、あん」

まんまんちゃん、あん。 1
まんまんちゃん、あん。 1

──バカな子


親切や優しさが 善意からしか出てこないと


そして 善意からは
親切や優しさしか生まれないと信じてるのね


寺の跡継ぎと結婚したはいいものの、夫の事故死により二十歳前にして未亡人となってしまった主人公。
ふってわいたような事態に動揺するのは彼女だけではなく同僚の僧たちも同じだった。なんたって、主人公の再婚相手になれば「寺の跡継ぎ」の座も手に入るのだから。
暗躍する檀家総代。送り込まれる新しい僧。主人公を意識しだす同僚の僧たち。
夫の思い出を胸に抱て生きる主人公めぐりは行く末は──


めぐりちゃん(主人公)はサークルクラッシャーならぬテンプルクラッシャーや!!



「ヨイコノミライ」の高校漫研、「メイド諸君!」のメイドカフェ、「モン・スール」の兄妹関係、「いちごの学校」の夫婦関係……
きづきあきら作品の特徴の一つとして、人間関係のどうしようもない閉塞感が挙げられると俺は思っています。
仏教寺院を舞台にしたこの「まんまんちゃん、あん」でもそれは同じ。


主人公が未亡人となったことを機に、寺院という閉鎖環境で急激に人間関係が絡まっていくのはまさにきづきあきらの本領発揮というところ。
本来女性がいてはいけないはずの寺院に跡取りの妻として入った主人公が、未亡人となった途端に周囲から「女性」として意識されるあたりの生々しさがたまりません。
「跡継ぎのための強制的な結婚」なんて現代の世相ではおよそ非現実的な事態も、寺院という特殊な環境下だからこそ当たり前のように発生してしまいます。


自らをまるで寺を存続させる道具のように扱う周囲に対して全く不平を示さない主人公めぐりの態度も、逆にますます人間関係をこじらせていくことに。
まるで聖女のように私心のない(ように見える)彼女の振る舞いは、それこそ僧たちよりも宗教家的と言えるかもしれません。それゆえ冒頭で抜粋した台詞のように疎んじられたりするのですけれど。
自ら望んでコミュニティを壊そうとしているかどうかの違いはあるとはいえ、ある種浮世離れした女の子一人に振り回されていくところは「ヨイコノミライ」のヒロイン青木杏と彼女を取り巻く漫研のメンバーに通じるところがありますね。


だからこそ、めぐりが押し殺した本心をさらけ出していく終盤のくだりのが心を打つのです。
過去の夫との思い出に縛られていた主人公のありさまと「跡取り息子」の死により停滞していた寺院の重苦しい空気が、晴れ渡るように見事にすっきりとなり未来へと進んでいくラストはなかなかのものでした。