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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

彼女は異国の王女さま -  「耳刈ネルリ」シリーズ読了

耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)
耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)

「自由・平等・博愛」をスローガンとして掲げ、委員会制度によって統治される"活動体連邦"
連邦辺境の村で育った主人公レイチ・レイーチイチは、中央活動委員会のメンバーである父のコネで「八高」こと第八高等学校へ入学することになる。
連邦構成諸国の王族ばかりが集まる八高で彼を待つのは、癖の強すぎるクラスメイトとの波乱に満ちた高校生活。そしてクラスメイトの一人、シャーリック王国の王女太子、"耳刈"ネルリことネルリ・ドゥベツォネガ。破天荒な彼女との出会いこそが、彼の人生を大きく変えてゆく──


畜生め。なんなんだよ、おい。このシリーズ、最高に面白いじゃないか。



最近の読書(2010年6月版) - 偏読日記@はてな

ディストピアとしての社会主義国家風の世界設定/描写と、それを覆い尽くす軽妙なようでねちっこい主人公の語り口が合体した結果できあがったのは、悪趣味すれすれの形容しがたい何かでした。暗い話にしようと思えば徹底的に可能なところを、あえてそちらに舵を切らず、目を向けず、ふざけてやり過ごしているからこそ逆に奥の方にあるどす黒いものがにじみ出てくる感じ。なんなんだこれ……

最近の読書(2010年6月版) - 偏読日記@はてな

シリーズ1巻、「耳刈ネルリ御入学万歳万々歳」の感想として俺はこんな事を書いていました。このときはまだ、本作の真価を見ていなかった。
肩の力が抜けたとでも言うか、混沌としていた1巻とは比べものにならないくらいすっきりとまとまった2巻を読み始めて印象が一気に変わりました。


ネルリを初めとする個性的すぎるクラスメイトや旧ソビエトを彷彿とさせる"活動体連邦"の体制描写、そういった表層部分を取り去っていけばそこに残るのは、父との確執を抱え屈折した村いちばんの秀才がエリート候補生が集まる「高校」での友情と恋を通して大人になる物語。直球まっしぐらにもほどがある。

ひとかどの地位に上ることを周囲から当然のこととして期待されつつも、自分の可能性も判らず将来に不安を抱く若者達。王族やエリート候補生、名家の子息という彼ら彼女らのプロフィールはこういった要素を抽出し、分かり易くあらわしたものでしょう。
自虐として一般人を自称する主人公からして、政府高官を父に持ち故郷の村で唯一高等教育を受けられる(高校に進学できる)人間ですからね。


周囲の街から隔絶し学生はみな校内で寮生活という寄宿学校のような舞台設定が、なおさら世間と切り離されたモラトリアムとしての「高校生活」を演出します。そしてこいつが、実に楽しそうなんですよ。
クラスの皆と一緒に食堂に詰めかけて騒ぎ、放課後は勉強会(ルビ:グループ交際)に励み、お風呂上がりの女の子達とばったり遭遇してドキドキし。寮の屋根の雪下ろししてるだけで面白いってのは凄いよ。

クラスがきちんとクラスとして機能しているのがこの楽しそうな学生生活描写に寄与するところ。舞台となる1年11組の人員構成は男4人(主人公含む)女8人で、これだけ見ると主人公を取り巻く女の子達と添え物としての友人(男)という図式が浮かんできそうです。
が、本作ではそんな事は全くありません。個々人の描写はけして多いわけではないのに(一部の人物は最後までまともなイラストが無かったり……)コミュニティがきちんと成り立っているのがとても良かったです。
2巻のみんなで演劇や3巻の「好きな人がいる」というネルリを皆で冷やかすシーン等々、クラスの皆で集まってわいわい騒いでいるシーンがどれもこれももっと見ていたいと思えるものばかりでした。


そして、ネルリ。
主人公と対になり、物語を構成する重要な人物である彼女。その強烈なキャラクターが本シリーズの最大の魅力です。
とことん「異国の王女さま」を貫き、傲慢で常識知らずで冷酷ながらもでもどこか可愛らしい姿が素敵すぎ。
登場直後にいきなり野外でトイレを済ますわ、片耳を切り落とした奴隷を従者兼クラスメイトとして連れて入学してくるわ(すべて「シャーリック王国では普通のこと」)、序盤の異文化コミュニケーション的な展開で既に掴みは十分です。
そこから紆余曲折を経てクラスの輪に溶け込み、主人公と惹かれ合い、しかし常に「王女太子」としての立場からは逃れられず。異国の王女さまであるネルリとただの平民である主人公の恋の先には困難しか待たないのは判りきっているところを、いたずらに悲劇として煽らないのもまたよし。


3巻で完結しているため主人公の八高入学からの1年間を描くだけで終わっていますが、出来ることなら彼ら11組の卒業するまでを読んでみたかったです。クラスメイト一人一人に光を当てながら季節の移り変わりと学校行事を描いていくだけでかなりシリーズを続けられそうな気がするんですけどね…… 
俺としては特に「○」「◇」「▽」ことハツー・イ=ウ・ソックのベイン教国連合三人娘たちの活躍をもっと見たいです。ハツーなんてろくにイラストも台詞もなく、文中での名前すら本名でなく「○」で済まされ、最後までどんな人なのかいまいち判らなかったよ。
とはいえ3巻で恐ろしいくらい綺麗に完結しているのもまた確か。1〜3巻というより、第1部・第2部・第3部として見た方が良いかもしれません。3冊を一気に購入して読んでよかったと心から思います。
恐らく1巻だけ先に読んでいたら、俺はそこでシリーズを追うのを止めてしまったでしょう。それくらい中盤から「化ける」お話でしたよ。


3巻ラスト、将来の見えないモラトリアムのただ中から抜けだしすっかり大人になった彼らの「同窓会」には思わずしんみりしてしまいました。
彼ら彼女らの行く道に、幸多からんことを。


耳刈ネルリと奪われた七人の花婿 (ファミ通文庫)
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耳刈ネルリと十一人の一年十一組 (ファミ通文庫)
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