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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

小川一水エッセンス、全部詰めちゃいました - 「天冥の標」(1)〜(3)

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

できることを全部数え上げた上で、できるかどうかわからないことや、やったことのないことをさらに盛り込んで、この話にしたという次第です。
した、というと時制がおかしいな。これから、する、のだから。


でもこの話の終わりはすでに見えています。そのころにはこの話は、たいしたものになっています。ですので私は、安心して、それまで好き勝手やってこの話を盛りあげていくというわけです。

(「天冥の標」(1)下 あとがきより引用)


身につけた技能と職業意識、そして誇りで持って絶望的な状況と戦う者。理念を、想いを、数世紀にわたって伝え続ける家系や組織。周囲からの非難や冷笑をものともせず、理想の実現に向かって進む者。


世界観から状況設定、人物造形までから小川一水がこれまで描いてきた要素が宝箱のようにふんだんに詰め込まれたその様は、「できることを全部数え上げ、できるかどうかわからないこと・やったことのないことを盛り込んだ」というあとがきが一番良くあらわしています。
29世紀の植民惑星を舞台にしたロストコロニー革命物語(1巻)、23世紀の主小惑星帯と木星圏を舞台にしたりスペースオペラ(3巻)、20世紀初頭の日本を舞台にしたパンデミックSF(2巻)
それぞれがかなり毛色の違う物語で、それぞれ1冊で十分に作品として成り立っています。その上さらに、「天冥の標」というシリーズ全体を貫く物語も表のストーリーの裏できちんと進めていっています。1巻で盛大に振りまかれた謎と伏線が2,3巻と続く中で物語的にはひっそりと、だが読者にははっきりわかるように明かされていくのは大河的シリーズならではの楽しみです。
第六大陸」で小川一水の存在を知り、それからずっと追いかけてきて既刊のほとんどを読んだ俺のようなファンにとってはそれぞれの物語要素から過去作を思い出してはニヤリとすることしきりでした。さらに勢い余って過去作を読み返してみたり。


もちろん、過去の小川一水作品を知らなければ楽しめないなんてことはありません。要素自体は再利用しながらも、より洗練の度を増した本作は小川一水入門にもふさわしいかと。現在刊行されている「天冥の標」シリーズのなかで何巻が好きかどうかで、過去作の中のどれを薦めるかの判断ができそうです。たとえば1巻が好きなら「復活の地」 2巻が好きなら「第六大陸」、3巻が好きなら「ハイウィング・ロストロール」や「群青神殿」 シリーズ全体の構成が好きなら「導きの星」「時砂の王」とか。


ちなみに俺が一番好きなのは3巻の「アウレーリア一統」
宇宙空間で生身で活動できるよう肉体改造した"酸素要らず<アンチ・オックス>"達による宇宙海賊狩りですよ、皆さん。「宇宙船同士の接舷戦闘」という状況を作り出すために全てをあつらえたかのようなこの設定が素晴らしすぎてもうたまらりませんでした。宇宙空間での致命的戦闘を禁止する「2222年第3次拡張ジュネーブ協定」(「クアッド・ツー」とルビ)とかもう単語だけで燃えるわ。
(参考リンク:宇宙の戦闘:『天冥の標III アウレーリア一統』より、エスレル号vs海賊船 | Drupal.cre.jp
そんな"酸素要らず"達が、木星圏の闇に消えた異星人の遺産を巡って宇宙海賊とデッドヒートを繰り広げる話ですからね。

"酸素要らず"達が戦闘開始前に唱える文句も

「怒り(レイジ)、溜め(チャージ)、撃ち放せ(バラージ)! 大気なくとも大地あり!(Lose O2, We Stand!)」

なんて感じでけれんみたっぷり。全編通してこんなノリでたまりませんでした。もう最高。


全10巻のシリーズとなることが予告されているので、完結まであと7巻。すでにかなりスケールの大きな物語になっているわけで、ここからどう広げ、盛りあげ、そしてまとめてくれるのかが楽しみでなりません。


天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)



天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)
天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)



天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)
天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)