偏読日記@はてな

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"素敵"な彼女と、いつまでも── - 「藍坂素敵な症候群」(3)

藍坂素敵な症候群〈3〉 (電撃文庫)
藍坂素敵な症候群〈3〉 (電撃文庫)

だから、これはただの好意などではない。ただの恋慕などではない。
それよりももっと、病的なもの。欲望を抑えきれない、病気のようなもの。
そうだ。もう自分は、完全に。 あるいは、とっくの昔に──


藍坂素敵な症候群に、罹患してしまっているのだった。


ちなみに"藍坂素敵"とは、本作のメインヒロインにして3巻の表紙イラストになっている娘のことね。制服+白衣+スニーカーというこのイラストは本作の内容を見事に象徴していて素敵です。



「藍坂素敵な症候群」シリーズも今回で堂々の完結。
終わり方としてはこれ以外の道が考えられないというか、それこそ1巻のラストの時点で「藍坂素敵な症候群」(≠シリーズタイトル)をオチにすることは確定してしまっているわけで。
そうやってオチを付けるために素敵が終盤で陥る窮地が規定され、そのためには最後に対峙する「敵」の性格付けが決まり、、その「敵」に打ち勝つ手段を得るために前座で戦う手下の属性も規定され。用意されたラストに至るために順番に積み上げたかのような、あまりに無駄がなさ過ぎる構成には相変わらず感心してしまいました。1巻のころからずっとこうなので、これはもう本シリーズの特徴と言ってすら良いかもしれません。
とはいえ、全てが枠にはまりすぎている感は否めないわけで、面白いし巧いのだけど読者を圧倒する力は控えめだなというのが俺の印象でした。


だがそれゆえに3巻の終章や2巻ラストの戦闘シーンなど、それまでの抑制をかなぐり捨てた文章が走ってると表現するしかないシーンが素晴らしく光を放つわけで。全編あんな感じで暴走してくれると面白いのではないかと思うものの、そのバランスを巧く制御しているから事全体として完成度が高いものになっているのかもしれません。
あまり本筋に関係ないところ(だけど外せないところ)としては、女の子の魅力を表現するのに見た目の可愛らしさだけでなく体臭や抱きしめたときの柔らかさと髪の感触や肌に感じるちょっと低めの体温などなんかに着目していて妙な生々しさが出ていて良かったですね。


3冊で手堅くまとまった(何より完結してる!)シリーズなので、水瀬葉月初体験にはぴったりでした。本シリーズを読んで他の作品も追いかけたくなり、いまは唯一続刊が出続けているC3―シーキューブに手を出したところです。つくづく導入が巧いねこの人は。

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