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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

クズだって、ぼっちだって、モテたいんや! - 「クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門」

「中野太一さん。キング・オブ・クズであるあなたに、曽我野三姉妹を攻略していただきたいのでシテ」
――いつものように屋上へ行った俺は、二六五五年から来た彼女、カマタリさんに出会った。でも俺、恋愛とか、ムリ。死ぬ。しかもそのターゲットの一人ってウチの学校のNo.1美少女じゃん。ムリ。死……ん? 「強くてニューゲーム」? ……俺、やるよ。クズだって……「モテたいんや!」日本中の男子諸君に捧ぐ、最弱ラブコメ堂々登場!

ファミ通文庫公式サイト掲載のあらすじを元に改変)

クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門 | 文庫 | ファミ通文庫 | 株式会社エンターブレイン

クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門 (ファミ通文庫)
クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門 (ファミ通文庫)


圧倒的な文章力と語彙と描写力に支えられた最低の馬鹿ギャグの連発に大笑いしていたら、いつの間にか最高にしんみりした青春恋愛物語になっていてびっくりですよ!! なんなんだよこれは。
むやみやたらに饒舌な主人公の一人称の語りによって息もつかせぬペースで繰り出される馬鹿ネタの数々、まさに前作「耳刈ネルリ」シリーズから変わらぬ石川博品作品の真骨頂です。使うネタそのものは多数に通じるオーソドックスなものを選択肢ながら繰り出すタイミングと意外性が研ぎ澄まされすぎていて破壊力が半端じゃない。前半は本当に大笑いしながら読んでました。さらにちょっと過剰なまでのフォント芸(巨大文字&フォント変更)まで加わえられるためもうお腹いっぱい。
一つ一つのネタに拘泥して引っ張ることをあまりせず、ただ速度と頻度のみを追求する息もつかせぬその文体には感服するしかありません。


作中で未来からやってきた美少女カマタリさんの口を通して語られる「モテ入門」が、あまりにも直球で正論過ぎるのも本作を特徴付けるところ。

「タイチさん、ささいなことに思えるかもしれませんが、そういうところがあなたを恋愛・幸福・生きがいといったものから遠ざけているのですよ」
「そういうとこってどういうとこよ?」
「恋愛に対して構え過ぎなのです。人を愛すること、人に愛されることは超自然的なことでも奇蹟的なことでもありません。愛というものをもっと自然に受け入れてください」
「ンなこといったってよォ……」
「自然に、あくまでも自然に──武士が死を思うように、カニクイザルがカニを思うように、ですヨ」

各章のタイトルからして「教室で寝たフリするな」「ムリというからムリになる」「自分の見た目に責任を持て」「恋愛に体を張れ」「物に当たっても人には当たるな」「「ありがとう」であなたが変わる」「ネコをかぶられる男になれ」
美容院に行けとか服を買えとかなんのひねりも無いよ!! 正論過ぎるよ!!
息を吸うようにネタを繰り出す主人公の語りと、変幻自在にそれに対応し時には逆襲を仕掛けるカマタリさんのおかしみが合わさってそんな直球過ぎる「モテ入門」をやってる割に読んでいる最中はまったく食傷しないのは流石でした。。カマタリさんの正論過ぎるアドバイスに対して繰り出す主人公の反応が毎回その発想はなかったと吹き出させるようなクズきわまるなものばかりなのも、これら「モテ入門」を読ませるものにしていた一因でしょう。美容院に行くお金がないのを解決するのがそんな短絡的な手段だとは……


あと、無愛想で口が悪いけれど実は……特に裏も何もなくてただ無愛想で口が悪いだけの娘、というメインヒロイン曽我野笑詩*1の造形と、そんな娘を読者に可愛らしく感じさせる手腕には感嘆。特定の行為やシチュエーションでかわいらしさを表現しているのではなく、ただそこに可愛い子が存在しそれをあるがままに表現しているとでも言うべきフェティッシュな女子高生描写がすばらしい。昇降口で靴を履き替えるところとか回転寿司食べてるだけで可愛いってのは凄いよ。
まあでも笑詩がさんざん作中で「無愛想」と言われている割に読んでいてそう思えないあたりははフィクション的美少女表現の限界について考えてしまいますが。

ちなみにこの描写の精度の高さは人物以外にもあてはまります。終盤に入るとそれまで馬鹿ネタの連発に使われていた文章力がそのまま情景描写と心情描写に転化するため情報量が激増、気がつけばしんみりした切ない話をてらい無く全力でぶつけてくるのには驚きました。友人の家で楽しく遊んだあとに夕方になってそろそろ帰らなければいけない空気。ちょっと仲良くなった娘と最寄り駅まで一緒に歩く夕暮れの風景。想い人と二人で電車を待つホーム。さんざん馬鹿ネタで笑わせたあとにそういう何気ない瞬間を見事に切り取って来るのだから侮れないです。ラストの笑詩への告白のくだりなんかは本当にすばらしかった。


しかしこれ、ファミ通文庫公式サイトでの「脱・残念系ラブコメ開始」という紹介を見る限りシリーズ化するのですかね。ここからハーレムラブコメに持って行くのは作中の倫理観が許さないだろうし、どうやって話を続けていくかは予想が付かなかったり。「モテ入門」はこの巻で済ませたので、作中でのカマタリさんの発言の通り「カマタリさん式仕事術入門」「カマタリさん式勉強術入門」をやるのか。

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同著者の前作「耳刈ネルリ」シリーズの感想記事。ネルリはいいよ、みんな読め。

*1:表紙で「カマタリさん式」の文字の上に居る目つきの悪い娘