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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

軌道エレベーターを見上げる街で、僕らは恋をする - 「ほしのうえでめぐる」(1)

感想

ほしのうえでめぐる 1 (BLADE COMICS)
ほしのうえでめぐる 1 (BLADE COMICS)

僕らの生まれる前から あれは沖合の人口島で建設中だった

「あれはこの街の誇り」「夢の乗り物だ」「完成まであと少し」「誰でも行ける宇宙旅行」

ずっとそう聞いて育った

(EPISODE01「リフト」より)


これは面白いよ……!! 「街の沖合に建設中の軌道エレベーター」という特大のSF要素を放り込んでおきながらも、それを裏方に徹させるバランス感覚。
軌道エレベーターがあることをさも当然のごとく日常を生きている登場人物達の自然さ、SF的な舞台設定を大上段から振りかざさず主題になるラブストーリーたちの裏を補強するもののように使うこのやり方はすごく好きです。

だってそうですよ。生まれたときから既に建設途中だった「明星」とともにあの街で生きる彼らにとって、それは多少なりとも特別なものではありつつもあくまでも日常の風景の一つ。
職場であったりふだん街の背景に見えるものだったり取材対象だったり「明星」との関わり方はそれぞれに違えど、傍らに居る恋人や、気になる女の子との関係などと比べて軌道エレベーターの存在は特別に重要なことではなかったりするのです。
「当然のこと」の前提が我々とまったく違うのを描くことによりSF的な要素を浮かび上がらせるとでも言いましょうか。
それでいながら高緯度すぎる日本近海に軌道エレベーターを建設している訳やほのめかしだけで核心に触れない「明星」の建設が一時停止になっている理由、そして隠蔽されている「明星」の本当の建設目的と頂上にあるもの、など背景になる設定と「明星」にまつわる物語もきちんと作ってあるだろうことが端々からうかがえ、軌道エレベーターが完全な書き割りの背景になってしまっていないのもよし。

軌道エレベーター「明星」を見上げる街での様々な立場での男女のラブストーリーを描いたオムニバス作品ということで様々な立場のカップルが登場する本作、俺が一番好きなのはEPISODE01のJSECA(日本宇宙エレベーター建設機構)の女性エンジニアと街の輸入雑貨店の店主の青年のカップル。宇宙開発ネタ好きの身に冒頭からあれだけのものをぶつけられたらもう一気に読んでしまうしかないじゃないですか。

各エピソードの登場人物の間にそれぞれ繋がりがあるというのはオムニバス作品の定番であり、もちろん本作でもそれは健在。EPISODE01に出てくる女性エンジニアとEPISODE04の若手新聞記者が同級生で、流行なので皆が腕に付けているミサンガを売っているのがEPISODE01の輸入雑貨屋の店長。EPISODE03の盲目の少女の祖父がEPISODE04・05の「明星」を設計した技術者の知人。
全ての登場人物の生活がほんの少しだけ連鎖している、ちょっとした描写の積み重ねで彼らがあの街で同時に生きていることを見事に表しています。
EPISODE04「特別な他人」 EPISODE05「小惑星がゆっくり回るように」で死期を迎えた老人の回想として語られる軌道エレベーター建設のきっかけが語られたあとでEPISODE01を読み返すとまた別の感慨があったり。
建設のきっかけを作ったものたちがみなこの世を去ってしまっても、その夢だけは生き続け志を継いだ若者たちが変わらずに宇宙を目指している。直接の人間関係ではまったく繋がりがなくとも、そこには確かに継承されているものがある。
老人の回想として語られる子供向けの「明星」広報イベント、そこで示された子供達に向けたメッセージが確かに息づいていることが、子供のころから「明星」で働くことを夢見続けてそれを実現したEPISODE01の女性エンジニアの彼女の存在によって確かめられる。直接の関わりは全くないけれど、彼らが同じ街で同じ夢を見ているということがこれだけで如実に判る。
これに燃えずしてなにに燃えるよおい。

というか、EPISODE04,05のバイタリティに溢れ周りを巻き込む夢想家の大富豪と天才技術者がそれぞれに異なる「自分の目的」を抱えながらも協力して同じ方向を向いて革新的な技術開発に邁進するというシチュエーションが個人的に好みすぎてもう。


宇宙開発SFラブストーリーのオムニバスとして各要素が高レベルにまとまり、綺麗に一つの作品を成していて実に素晴らしかったです。
全10話構成が最初から決定しているとのことで、後半5話が収録される2巻の発売が楽しみでなりません。1巻も気に入りすぎて何度も読み返し、毎回EPISODE05の子供向け「明星」広報イベントの下りで語られるビジョンに感極まって涙してる俺はこの物語が好きすぎるよ。