偏読日記@はてな

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「最悪」の仕事の歴史

図説「最悪」の仕事の歴史

図説「最悪」の仕事の歴史

イギリス史の各時代における「最悪」の仕事は何かというランキングを通し、それぞれの時代の底辺社会の有様を描いているのが本書。

「反吐収集人」「沼地の鉄収集人」「死体取調べ人」「犬猫殺し」「掘り出し屋」「ヒキガエル喰い」等々、その職業名を見ているだけでもなんだか背筋が寒くなってきます。「泥ひばり」「焼き串少年」「火薬小僧」など、名前が可愛らしい職業も実態は惨憺たるもの。
肉体労働・単純作業・悪臭・健康被害などがいつの時代も変わらない「最悪」の要素なのですけど、巻末の「すべての時代を通じて最悪の仕事」がこれら全てを非常に高い水準で満たしていてさもありなんと納得してしまいました。確かにあれは本当に「最悪」だ。

中には俺がそんな職業が存在することを知らない、そういった「仕事」を必要とする社会構造が存在するという事を知らなかったものも数有り、「歴史上のイギリス庶民の生活」を知るという意味でも大変役立つ本でした。


非常に数多くの「仕事」が紹介されているので全てを紹介する事は出来ませんけど、印象に残ったのはこの辺り。

  • 隠遁者

ジョージ王朝時代の貴族の庭園で、「自然の中で瞑想する賢者」を演じる職業。「人生のはかなさや富のむなしさを瞑想する風雅で賢い苦行者が庭園の隅にうろついていなければ、その景色は完成しないからだ」(本文より)と言う記述を見たときには笑うしかありませんでした。
ただぶらぶらしているだけで給料がもらえる楽な仕事と思う向きもありましょうが、庭園を出られない・極端な所持品制限(聖書と最小限の身の回りの物のみ)・身なりの制限(髪・ひげを切ってはいけない)など生活全般に渡って「庭園にたたずむ苦行者」を演出しなければならないのが辛すぎる。

  • 亜麻の浸水職人

「とにかく見ていなければならない……つねに……何週間も」(本文より)
採取した亜麻の腐敗工程を制御し、繊維を取り出すのがこの仕事。と言っても中世の技術なので「腐敗を制御」といっても腐っていく様をただひたすら観察して適切なタイミングで止めるというだけです。強烈な悪臭もセットについてくるよ!

  • 爆破火具師助手

簡易的な指向性爆薬を使い、攻城戦の際に城門を爆破するのがこの仕事。爆薬を製造する爆破火具師は高度な技術を習得した技術者なので待遇もよく「最悪」の仕事ではないのですが、それを抱えて銃火の飛び交う中で城門にセットしてくる「〜助手」は間違いなくある種の「最悪」
「自分の仕掛けた爆薬で打ち上げられる」なんてフレーズが「ハムレット」から引用されていますが、それだけ自爆がありふれた事だったという事でしょう。