偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

ソビエト乙女は戦場で何を見る? - 「戦争は女の顔をしていない」

「あの頃はまったくまだ小娘で、ただ、大きくなる事だけ夢見てた。そこで戦争よ」

戦争は女の顔をしていない

戦争は女の顔をしていない


軍民合わせ二千万人にもわたる死者をもたらし、ソビエト社会に巨大な傷痕を残した独ソ戦
そこで戦ったソ連軍に、数多くの女性兵士が所属して居たのはよく知られたところです。有名なところでは戦闘機パイロットのリディア・リトヴァクなどが居ますね。

この「戦争は女の顔をしていない」は、そんな女性兵士達が彼女たちの体験した「戦争」を、戦後30年近く経ってから振り返るインタビュー集。
生々しすぎる証言がひたすら続く内容は、それが故の迫力に満ちています。読み始めたら引き込まれて離れられなくなり、休日の午後を使って一気に読み終わってしまいました。


この本の内容の凄まじさについては、いくら言葉を尽くすよりも実際に見てもらうのが一番だと思うので証言の中で心に残ったものを抜粋してみます。

「戦争の本って嫌い……。英雄達が出てくる本……。私たちはみな病人だった。咳をしていて、寝不足で、汚れきっていて、みすぼらしい身なり。たいていは飢えていて……。それでも勝利者なの!」

「何を戦争に持ってったか?トランクいっぱいのチョコレート菓子です。学校を卒業してから派遣された村では支度金をくれたの。それを全部使って鞄いっぱいのチョコレート菓子を買ったわけ。戦場ではお金はいらないという事を知っていたし」

「勝利の日はウィーンで迎えました。そこで動物園に行きました。とても動物園に行きたかったんです。(略)何か嬉しいこと、こっけいなものを見たかった。別世界のものが見たかったの……」

「私は自分の背丈より大きいライフル銃を持っていました。ライフル銃をもらったとき思ったものです、『この丈くらいまで大きくなるのはいつだろう』って。」

「戦争でいちばん恐ろしかったのは、男物のパンツをはいている事だよ。これはいやだった。(略)祖国のために死んでも良い覚悟で戦地にいて、はいているのは男物のパンツなんだよ。こっけいなかっこしてるなんて、ばかげてるよ。」

「地雷除去の工兵は人生で何回間違える事があるか?」「工兵はただ一度間違えるだけです」「まさにその通り。よくできた」

「『幸せって何か』と訊かれるんですか?私はこう答えるの。殺された人ばっかりが横たわっている中に生きている人が見つかること……」

戦争が終わる頃にやっとよそ行きとしてスカートが支給されたの。男性用の下着でなくてメリヤスの下着をもらったのもその時だったわ。嬉しくてどうしていいのか判らなかった。メリヤスの下着が見えるように軍服のボタンを外して着たくらいよ」

「戦闘のあと誰も生き残っていないことがあったの。大釜いっぱいスープを作ったのに、誰も食べてくれる者がいないってことが」

「戦争はどんな色か、と訊かれたら、こう答えます。『土色よ』と。工兵にとっては……黒や、砂の色、粘土の色、地面の色だと……」

「軍隊以外の社会で何ができるって言うの?平和な日常への不安……(略)なんの技術もないし、なんの専門もない。知っているのは戦争だけ。できるのは戦争だけ」

「ただ一つだけ恐れていたのは死んだあとに醜い姿をさらすこと。女としての恐怖だわ。砲弾で肉の断片にされたくなかったんです」

「貴方は作家よ。自分で何か作って書いてちょうだい。何か美しいことを。シラミやぬかるみ、ゲロとかそういうことは抜かして……ウォッカや血の臭いは抜きで……現実の恐ろしさとかけ離れたことを」

「みんな戦争で戦利品を持ち帰ったけど、私は夫を持ち帰ってきたの。娘もいるし、孫がいま育っているところです」

「戦争では何でも早い。生きていることも、死ぬことも。あの二−三年で一生を生きてしまった気がする。誰にも判ってもらえないけど、時間の早さが違うの……」

「夏になると、今にも戦争が始まりそうな気がするんだよ。太陽が照りつけて、建物も、木々も、アスファルトも温まってくると、あたしには血の匂いがするの。何を飲んでも食べてもこの匂いからのがれられない!きれいなシーツを敷いても、血の匂い……」


短く紹介できるものだけでもこれだけあります。他にも紹介したいエピソードばかり。
俺にはもうこの本を証言のの抜粋以外で紹介する術を持ちません。手抜きと言われようが「生の証言」しか持たない力がそこにある。


思春期の最も多感な時期を戦場で送ってしまった故に、あっという間に精神を摩耗してしまう彼女たちの姿は読んでいてとても辛いものがあります。
そして、そんな過酷な戦場を何とか乗り切って故郷に帰ってたら、「戦場に男あさりに行っていたあばずれ娘」として周囲から白眼視されるという記述が頻出するあたりがとてもやりきれないです。
それゆえに、親身になって戦場体験の証言を収拾する著者に、「話したいことがある」という連絡が全国から殺到すると言ったことになるのでしょう。


とにかくもう、女性(少女)兵士を語る上で必読の一冊ではないかと。



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