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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

時砂の王

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

我々全て、滅びる時間肢に属する全ての並行人類の希望を託して、君達に命じる。


伝えろ、勝て。

書店で手に取った際はその薄さに多少の不安を覚えないでもありませんでした。
が、読み終えてみれば全く無駄な部分の無い実に濃密な構成で、300ページ弱という短さを全く感じさせない内容。
「老ヴォールの惑星」といい小川一水の短・中篇は本当に輝いてるね。


「未来で人類を襲う災厄をあらかじめ防止するため、過去に戻って彼ら『人類の敵』の太陽系来襲を防ぐ」という内容からは過去の改変とそれによって生じるタイムパラドックスがメインの物語のように思えます。

もちろん時間遡行を扱うお話である以上そういった要素から離れることは出来ませんが、本作ではタイムパラドックスはむしろ歓迎されるべきものでありそれほどの問題になりません。

むしろ主題は主人公オーヴィルを初めとする人造知性体たちの人類との関わり方。


未来を改変するためにはいま居る時代の人類にどこまで介入することが許されるのか、そしてその時代で失敗したからと言って更に過去に遡行し同時代の人類たちを見捨てるのは許されるのか。

そして「人類を護る」とは一体なんなのか。


未来人類の種の保全、すなわち過去の人類に「伝え、勝つ」ことを至上の存在意義とし人を遙かに超える能力を与えられた主人公たちメッセンジャー知性体が、だからこその悩みに苦しむさまは単純な時間SFの域を越え、造物主と被造物の関係を問うものになっています。


そんな葛藤に苛まれながらも使命に従い、最終的に10万年の長きにわたる戦いに挑むことになるメッセンジャー達が最後に行き着く結論はある意味では当然とも言えるものです。
しかし其処に至るまでの膨大な敗北と悔恨、そして僅かな勝利と喜びがしっかりと描写されているからこそラストは輝いているのではないかと。



それにしてもまさかここまで(物語的な意味で)熱い邪馬台国が出てくるお話だとは思ってもみませんでした。
終盤の卑弥呼の燃えっぷりは異常。