『数学』は現実に立ち向かう単純にして最強の道具 - 「数学で犯罪を解決する」
「全ては数字だ。数学は単なる数式なんかじゃない。それは論理であり、合理性そのものだ。
頭を使って最大の謎を解き明かそうとする事なんだ」
(「NUNBERS」冒頭ナレーションより)
- 作者: キース・デブリン,ゲーリー・ローデン,山形浩生,守岡桜
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2008/04/11
- メディア: 単行本
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FBI捜査官の兄ドンと、数学教授の弟チャーリー。この二人の兄弟を主人公にしたアメリカTVドラマ「NUNBERS」(邦題:「NUNBERS 天才数学者の事件ファイル」)は、その邦題の通り数学者であるチャーリーが「数学で犯罪を解決する」物語。
そして本書は、それが「NUNBERS」の物語の中でどのよう使われるかの解説を通じ、様々な数学理論で「現実に起こっている問題を数学で解決する」方法に付いてわかりやすく解説する啓蒙書です。
俺はもともとドラマの方については「面白い」と多少耳にした事がある程度で、関連のある本などと思わずにタイトルに惹かれ読んでみれば大当たり。「数学」がここまで現実に関わり、その問題を解決できるものだったとはつゆ知らなかったので、まこと目を開かれる思いでした。
本書の中では数多くの数学的手段を犯罪解決手段に応用する為の理論と手法が解説されており、その一例を挙げれば
- 「地理的プロファイリング」を用いて、殺人事件の起こった場所から連続殺人犯の居住地域を逆算
- 「画像エンハンスメント」によりTV報道のぼやけた画像を拡大し、そこに写っている犯人を割り出す
- 膨大な傍受情報に「社会ネットワーク分析」を適用する事により、アルカイダ内で重要な地位にある人物をあぶり出す
- 大リーガーの成績に「変化点検出」を用い、その選手がドーピングを始めた(成績が急に向上した)時期を突き止める
ここにあげたのはあくまでも一例で、これら以外にも数多くの数学的手法・数学的思考法が取り上げられ、それだけでは無味乾燥なものに思える「数学」が、鮮やかなモデル化により現実を反映し説明する手段になっていく様が非常に平易で判りやすい文章で解説されています。
この手の本には数式の羅列がつきものと思う方もありましょうし、それは確かに間違ってはいないのですけれど、中学〜高校生レベルの数学知識があればほとんどは理解できるのではないかと。
あくまでも「理論をどのように現実世界の事象に当てはめるか」と言う事に焦点が当たっており、使われている式自体は加減乗除のみの単純なものだったりするところがまた奥が深いです。
そして、「犯罪を解決する」というテーマとは全く関係のない話になっていまいますが、著者(もちろん数学者です)がMITの学生だった頃、身につけた数学的知識を応用してラスベガスのブラックジャックで荒稼ぎしたと言う経験談を読んで「マルドゥック・スクランブル」の後半を思い出してしまったり。
あれは人工知能エージェントであるパートナーと協力して場に出されたカードを全てカウントする事により、「確率」でブラックジャックを戦うお話でしたけど、現実のMITの学生は数人でチームを組んで全く同じ事をしているのですね。
著者が教授になってからも、担当の学生がやたら確率論の講義に対して熱心だと思ったら彼もラスベガスのブラックジャックで荒稼ぎしていた、なんて笑い話が載せられているあたり、かなり一般的な事のようですし。向こうの「数学が出来る奴」の典型的な遊びなのかな、これ?