偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

蒸気コンピューターは「あり得た歴史」の夢を見るか? - 「ディファレンス・エンジン」

時は産業革命、数学者バベッジによって発明された「差分機関」(ディファレンス・エンジン)の完成で、蒸気機関と機械式コンピューターが歪に発達した1855年のロンドン。
ロマン派詩人バイロンは首相となり、詩人ジョン・キーツは蒸気映像作家として活躍し、カール・マルクスは分裂したアメリカでコミューンを立ち上げる。渡英した福沢諭吉森有礼は蒸気コンピューターの輸入を画策し、「機関(エンジン)の女王」レイディ・エイダ・バイロンは関わる者達を国際的陰謀に誘う…………


蒸気機関の彩る鏡合わせの19世紀で繰り広げられる、幻想と爛熟のモチーフに彩られた歴史改変SF、ここに再臨。
(上・下巻裏のあらすじを合成)


ディファレンス・エンジン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
William Gibson Bruce Sterling 黒丸 尚
4150116776

ディファレンス・エンジン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
William Gibson Bruce Sterling 黒丸 尚
4150116784

俺のSFを読む楽しみの一つに「しっかりと構築された「異世界」が見たい」と言うのがありまして、物語的には多少消化不良な部分はありつつもこの一転では大満足。
実在の歴史上の人物や歴史上の出来事、実在の場所に「蒸気機関と機械式コンピューターの発達した世界」という層を追加し、そこに現れる我々の知るものとは少しだけ違う1855年のロンドンにはそれだけで惹き付けるものがあります。


だいぶ取っつきづらい文体のうえ、スムーズすぎる場面転換に混乱させられることもままありましたけれど、その混乱すらも最終的には物語世界への没入を高めてくれた気がします……というのは流石に言い過ぎか。俺はとにかく世界観萌えが激しすぎ、背景設定が気に入ってしまえばキャラクターや物語がどうでも良くなってしまう質なのでこの辺りは話半分で聞いてください。
あり得たかも知れない架空の歴史の中で、その時代を生きる人々の群像劇として読むのがきっといいのでしょう。



そして、ラストに控えるとある仕掛けに気付かないまま読み終えて下巻の解説に進み、無粋きわまりない形でそれを「解説」されてしまって萎えることこの上なく。
……あまりにも物語に沿いすぎ、初見の人はまず理解できないであろう上巻の解説もどうかとは思いますけど。上巻と下巻の解説を足して二で割ったくらいが俺にはちょうどいいのだけどなあ。