零式
- 作者: 海猫沢めろん
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/01
- メディア: 文庫
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やるしかない。
設計思想? そんなのはひとつで十分だ。
速度───運命ごとぶっちぎる速度。
核攻撃によって国土を焼かれ、<帝国>の植民地となった「皇義神國」
巨大な壁によって封鎖された国境の中では国粋主義の右翼カルト「大零翼賛会」のテロと占領軍の弾圧が繰り返され、人々は悪徳に満ちた街の中で偽りの繁栄に溺れていた。
時代遅れの原始発動機(レシプロエンジン)を積む単車を操る暴装賊(ナイトライプス)朔夜もそんな街の住人の一人。
薬物に浸り無軌道に生きる彼女が、同じように虐げられ希望を失った少女、夏月と出会ったとき物語は動き始める。
目指すは国境の壁の外。運命を変えられるのはただ速度のみ。
出会いが、マシンの熱さが、現実に擦り切れていたふたりの心に火をつける────
かなり好みが分かれる内容だけど 俺 は 好 き だ こ れ。それはもう普段は書かないあらすじをわざわざ自分で考えて書いてしまうくらいに。
極端なまでのスピード原理主義というか、悲しい運命も過酷な現実もなにもかもをマシンの馬力と速度で振り切ってやるという突き抜けたスタンスが素敵過ぎ。
エンジンの馬力 = 力 とでも言うべき思想が根底を貫く様はある意味格好いいです。単車で600km/hってもう馬鹿かと。
タイトルの「零式」は零式艦上戦闘機(いわゆるゼロ戦)のことで、あらすじからも判るように架空の戦後史構築・歴史改変ネタや右翼(国粋主義者)ネタが全編に満載です。
なんたって朔夜の操る単車の発動機からして「誉」改造の変則12気筒星型発動機ですし。
が、このあたりは知ってれば小ネタとして楽しめるというだけで、別に知識がなくとも全く問題なし。
「運命ごとぶっちぎる速度」というラストの状況を作り出す舞台装置とでも思っておけばOKかと。
スピードを出すことがすなわちクソったれな現実から自由になることとイコールになる終盤の展開は、異様なほど疾走感に満ちた文体とあいまってまさに壮絶としか言いようがありません。
舞台設定や主人公ふたりの置かれた状況は少々特殊ながらも、読み終えてみればしごくまっとうな青春で自己実現で若者が大人に向かって一歩踏み出す物語でした。
あと、少々気になるのは現実のバイク野郎がこれを読んだらどう思うかということ。
実際にバイク乗ってる人からするとこの内容はどうなんだろう。
や、600km/hをたたき出すモンスターマシンの実現可能性とかそういう点は置いとくとしても。