偏読日記@はてな

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その身に背負うは、惑星(ほし)の全て - 「司政官 全短編集」

人類が星々に進出し、地球以外の惑星へ植民を始めた世界。人類圏の拡大と共に、ほころびを来し始めた連邦軍による軍政に変わって人類が選んだ統治制度、それは高度な行政知識と高潔な人格を併せ持つ「司政官」が、官僚ロボット群を率いその身一つに惑星の全てを背負う司政官制度であった。
理解を超えた原住異星種族と、そこに入植した人類たちを相手に単身挑む、若き司政官たちの群像。
(裏表紙あらすじより)


司政官全短編 (創元SF文庫 ま 1-1)
眉村 卓
4488729010


眉村卓の有名シリーズが一冊に、という売りに惹かれ、内容については多少知っている程度で買ったこの「司政官 全短編集」ですが、実に良かった。
30年前に書かれた作品なのに古さを全く感じさせないのは、本作が「司政官」が統治を行う際に用いる細かいギミックではなく、その統治機構そのもの、「司政官制度」というシステムを描いているから。
彼らが具体的にどのように統治業務を行っているかという部分の描写を執筆当時の最新テクノロジーを用いて詳細に描いたりしていたら、逆に今となっては陳腐化して通用しなくなっていたのではないかと。
その身一つに惑星全ての責任を負うがゆえに、個別の人間としての顔をほとんど持たない(持てない)司政官たちと、彼らの命令を杓子定規に実行する官僚ロボット群という統治の枠組み自体は、恐らくどんなに技術が進歩しようがSFとして通用すると思うのです。


そして同時に、各話の舞台となる惑星の環境やそこで暮らす原住異星生物の生態が、ただの「今週のびっくり宇宙生物紹介」に堕していないところがまた素敵。
各話の主人公である司政官たちの内面の葛藤がそれぞれの担当する惑星の環境や原住異星種族と完璧に融合し、舞台設定が単なる設定で終わっていないのですよね。
もちろん、あまりにも主人公達の抱えるものと舞台設定が合致しすぎ、「物語のために用意された世界観」であると言うことを感じてしまうという面もあります。
しかし表面上はおよそ非人間的なまでに「統治システムの長」でしかない司政官たちの抱えるものを、彼らが治める惑星の側から描き出すというこの手法はなかなか好みでした。


本作には「司政官制度」が軍政に変わるものとして期待と反感を持って迎えられる制度の始まりから、「官僚」の名の如く手足であるロボット群が硬直化し、既に司政官と言う存在を必要としなくなった惑星で孤立無援に自分の職務を果たそうとするようになる末期まで、一連の歴史の流れに沿って短編が配置されています。
俺が一番好きなのはラストに収録されている「限界のヤヌス」 完全に統治機構が崩壊し原住異星文明からも植民者達からも見放され、秩序回復のための連邦軍の介入の迫る中でそれでも自分に化せられた司政官たる使命を果たそうとする主人公の「人間くささ」がたまりませんでしたよ。


<関連リンク>
巡回先での本作(と、その関連作品)の感想は以下の通り。

司政官制度の崩壊した「限界のヤヌス」の先の時代が描かれているという話の「消滅の光輪」もこうなったら是非読んでみたいです。