女将軍、立つ - 「大奥」(4)
「わしはこの徳川の世を存続させるために生まれてきた将軍という名の人柱である!
万が一このまま男子が減り続けてこの世が滅ぶというなら わしも共に滅びるまでのこと!
誰か わしが女将軍となることに異存はあるかえ!?」
2巻から続く家光編を終え、家綱の治世を経て綱吉の世の初めまでを描くのが今回。
男女の社会的役割の逆転した江戸社会という異常な状況へ読者を導入する1巻、そこに至るまでの過程を家光(女)*1と側室の有功の悲恋を通じて描く2・3巻に比べ多少盛り上がりに欠ける感がありました。
これはあまりにも強烈すぎる印象を読者に残す家光(女)に比べ、家綱の印象があまりにも薄すぎる為でしょう。家綱その人を描くと言うより、女将軍を頂点に抱くことが日常と化した江戸社会と、大奥総取締となった有功の行く末を描くためにあるようなエピソードですからね、家綱編は。
春日局・有功・家光(女)・お玉の方といったそれぞれに強烈な人物達のぶつかり合いだった家光編に比べ、家綱-有功の関係だけで終わってしまいますし。
なので4巻後半からはじまる綱吉編には期待をふくらませていたりします。まさに「太平の世に現れる君主」を地で行く綱吉と、彼女をよそに大奥内で繰り広げられだろう男たちの権力闘争。1巻で主人公に「ここは……暗い」と語らせた男の嫉妬と野心渦巻く大奥の姿がまた見られるのでしょう。
それにしてもつくづく大奥の男たちが美男すぎ、読んでいて目が痛くなってきそうです。それぞれタイプの違う美男子を描き分けるよしながふみのその手腕には脱帽するしかありません。
そして顔だけでなく立ち姿、その中でも見返り姿の美しさには惚れ惚れしてしまいます。裃姿というのは後ろ姿・振り向き姿が最高に格好良くなるものなんですね。
そして女将軍達もまたこれが可愛いんだ、本当に。
家光(女)があまりにも素晴らしいというのは前回の感想記事で書いたところですけれど、その後の将軍達もまた良し。
幼女時代の愛らしさのまま大人になったかのような、可愛いけれどどこか場違いな家綱。生まれながらの貴人にふさわしい頽廃的かつ妖艶な雰囲気を全身から漂わせる綱吉。
1巻での可愛らしくも美人でもないが知性と激しい気性を反映し女だてらに格好良い吉宗や、幕府の頂点に君臨するにふさわしい気品を備えた美しさの家光(女)なども含め、それぞれの人物を見事に表した容姿が素敵すぎる。
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月刊誌に不定期連載のため非常に単行本刊行速度の遅いこの「大奥」、ちょうど4巻まで出て家光編終了で一区切り付いている今が一番新規購入にふさわしいタイミングなのではないかと思います。
大奥の男女を逆転してみただけの一発ネタなお話を予想していると良い意味で裏切られるのがこの物語です。家光(女)の生き様をとくと見よ。
*1:家光のみ作中で男性も登場するのでこの表記