恋歌よ、世界へ響け - 「とある飛空士への恋歌」(5)
──いま行くよ、クレア。
──愛しい、風呼びの少女。
「とある飛空士への恋歌」シリーズ、これにて完結。
3・4巻に引き続いての怒濤の盛り上がりを期待していたら、予感を漂わせつつも終始淡々としたまま終わってしまってちょっと拍子抜け。
1巻〜3巻前半までの丁寧な描写と人間関係の積み上げの上に3・4巻の盛り上がりがあったことを思うと、5巻はまるまる「シリーズのエピローグ」と考えるとちょうど良いのかもしれません。1冊単位ではなく、1〜5巻のシリーズ全体で構成が成り立っているとでもいいましょうか。
それぞれの登場人物の行く末を描き、ずっと謎だったあの世界の真の姿について真実の一端を示し、そして美しすぎるラストの光景へ。"エピローグ"に1冊丸ごと使ったかのようだからこそ、余すところ無く隅々までゆきとどいた素晴らしい最終巻。
作中での言葉を引用しますが、まさに直球の「少年少女の出会いが世界を変え、初めての恋が未来を切り開く」物語でした。
何となく違和感を感じていた現代社会由来の部分(単位系・食材や料理の名前・一部テクノロジー)も、おそらくは作品世界の成り立ちと関連させ何らかの伏線になっているのではないかと予想しています。
恋と空戦の物語、ふたたび - 「とある飛空士への恋歌」(1)〜(3) - 偏読日記@はてな
「とある飛空士への追憶」(注:同一の世界を舞台にした関連作品)を読んだときから俺はずっとこの世界は植民惑星のなれの果てなのでは、と思っていたものの「高度を上げても水平線が丸くならない」という描写からもっとぶっ飛んだ何かなのではという気もします。
あと、植民惑星またはスペースコロニーだろうと思っていたら何かもっと恐ろしいものだった"世界の真の姿"にはますます謎が深まるばかり。単位系や固有名詞が完全に地球(=現代社会)由来なのにどう考えても舞台が地球じゃない理由については結局わからないままでしたし。単に読者に判りやすくするためだけとは思えないんですよね……
お話の本題ではないとはいえ、この辺りの世界設定そのものに関わる部分、そして敵としての描写に終始した"空の一族"まわりを使って飛空士ワールドでもう1シリーズくらい書けるんじゃないかと思ったりします。というか俺が読みたい。書いてください頼むから。
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半端じゃなく力の入った1〜3巻の感想で俺がこの物語に対して言いたいことはおよそ言い尽くしているので、併せてこちらもどうぞ。