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偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

ドイツ軍落下傘部隊 英国に立つ - 「鷲は舞い降りた」

感想

鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)
鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)

ヒトラーの密命を帯びて、イギリスの東部、ノーフォークの一寒村に降り立ったドイツ落下傘部隊の精鋭たち。
歴戦の勇士シュタイナ中佐率いる部隊員たちの使命とは、ここで週末を過ごす予定のチャーチル首相の誘拐だった!イギリス兵になりすました部隊員たちは着々と計画を進行させていくが……
(Amazon作品詳細ページより引用)

10年以上前に一度図書館で借りて読んで、内容をすっかり忘れていたのでもう購入して再読。何度読んでも面白い!!


隠されていたシュタイナ中佐以下13名の墓碑が舞台となるイギリスの田舎町で偶然発見されるという冒頭の展開、そして「チャーチル拉致」という彼らの作戦目的の上からも、シュタイナ達の企てが失敗することは冷酷なまでに明らかです。
だがそれでも、むしろ絶対に成功しないこと判っているからこそ読み進めてしまう力が本作にはある。


読んでいて拉致が成功してしまうのでは? と疑わせる綿密な準備行程はそれだけで十分に楽しいですし、そんな綿密な作戦がわずかなほころびから崩壊していく様はとても手に汗握るもの。ラストに控える米軍レンジャーに包囲されたノーフォークの寒村での絶望的な籠城戦もたまりません。
それに色を添えるのが魅力的なキャラクター達も実に良し。
まさに自らの誇りに生きる軍人、歴戦の勇士という言葉がこの上なくふさわしいシュタイナとその部下たち。
拉致作戦を取り仕切る軍情報部のラードル中佐の中間管理職の悲哀、シュタイナ達の手引きをする老齢女スパイのジョウアナのイギリスへの憎しみと郷土愛の入り交じった複雑な人間性なども素敵です。


更にシュタイナと並んで、もしかするとそれ以上に突出して魅力的なのは降下の先触れとして目的の村に潜入する元IRA闘士デヴリン。
常に諧謔を忘れないその姿にはもう痺れるしか有りません。とにかくいちいちやることなすことが格好良いんだこいつは。

「答えは簡単だ。そこに冒険があるからだ。俺は、偉大なる冒険家の最後の一人なのだ」

シュタイナになぜ今回の作戦に参加するのか問われた答えがこれ。一文だけ取り出すとただの気取り屋にしか見えないのが、作中のデヴリンが全体の流れの中で発言すると全く不自然でないのです。
もちろん口だけではなく態度も伴い、射撃の名手で度胸もあって荒事にも強いってもうどんなスーパーマンだよ。そりゃ潜入先の村娘モリイも一発で惚れるわ。


成功したとしても軍事的にはなんの意味もないチャーチル拉致作戦へ、無益であることを理解しつつも邁進する彼らの姿は逆説的にその誇り高さを克明に描いているのではないかと。まさに「男には負けると判っていても征かなければいけないことがある」の世界です。

惜しむらくは彼らに対するアメリカ軍にシュタイナやデヴリンに匹敵するほどの人物が居ないのが難点でしょうか。「チャーチル」は確かに本作の中でもっとも勇気に溢れた人物でしょうけど、それ以外がどうもいまいちに感じるのです。
ステロタイプな悪役イメージで描かれることの多かったドイツ軍人を人間味のあるものとして描いたことが出版当初話題になったとのことなので、その反動としてかもしれませんけれど。



そして、この感想記事を書きながら本作に「鷲は飛び立った」という続編が存在することを知り、あらすじを読んでショックでしばし放心。
ヒギンズ先生いくら何でもそれは無いわ……