偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

狙撃

狙撃 (ハヤカワ文庫NV)

狙撃 (ハヤカワ文庫NV)

「合衆国大統領を暗殺せよ」
米当局の取締りに業をにやした麻薬カルテルのボスたちは、一人の男に報復を依頼した。
男の名はシンカヴェジ。高度のゲリラ戦術を身につけた超一流のスナイパーだ。
だが、CIAの情報網により、計画は大統領警護課長マグワイアーの知るところとなった。
彼は、旧友を殺害されて怒りに燃える元デルタ・フォース中佐ギャノンと協力して、暗殺者を迎え撃つ。
密林に都市に展開する冒険アクション。
(Amazon商品ページより引用)

しばらく前に購入していたのをやっとこさ読了。
「樹海戦線」「ミッションMIA」そしてこの「狙撃」と俺の中でのJ.C.ポロック祭りはまだまだ続くよ!


今回も情景や戦術、武器などに対する恐ろしいまでに詳細な描写力はあいかわらず。
そのあまりに微に入り細に渡る「解説」が少々うざったく感じることもありますが、一般になじみのない情報機関や特殊部隊、殺し屋から麻薬カルテルまでを確固とした現実の存在として描く為にはある意味実に良い手段なのでしょう。

今回はCIA、シークレットサービス等のアメリカ情報機関がメインとなってくるので、その辺りの組織やらテクノロジーやらの描写が凄まじいです。
まさに世界に知らないことはないとでも言いますか。


そんなアメリカという国家の力を象徴するがごとき圧倒的な包囲網を、ただ己の頭脳と行動力のみで掻い潜っていく暗殺者シンカヴェジの姿はある種のダークヒーローと言っても良いかもしれません。
共感は出来ないけど格好いいんですよこれが。

対する大統領警護課長ギャノンと元デルタ・フォースのマグワイアーは逆に組織の力、なかでも個人的人間関係を縦横に駆使してシンカヴェジを追います。 
正直言って読んでいる時には同期生・戦友の繋がりというのはそこまで強いものなのかと首をかしげることもありましたが、これは徹底的に孤独なシンカヴェジと対比させるためにあえて極端に描いているのではないかと。
同じヴェトナムで地獄の深遠を覗いた者達のその後の生き方の違いを端的に表現しているのがこの辺りなのではないかと思います。


少々ご都合主義的な僥倖に助けられすぎ(特に終盤)なのではないかとも思えますが、これは逆に合衆国大統領の命を狙うということの難しさを表現しているのでしょう。
超一流の才能を持つ人間が超一流の努力をし、その上で運に助けられて初めてやっと可能というか。


そして迎える結末のやりきれなさも相変わらず。
このなんとも「現実的」なラストはポロックの味だよなぁ。