偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

魔法少女防空戦隊

数日前に「末期戦的魔法少女」というキーワードで検索してこのblogを訪れた人がいて、もちろんそんなキーワードでは1件もヒットしなかった*1のですが、単語自体に妙に惹かれるものがありました。

「末期戦」な「魔法少女」とは一体どのようなものだろうと考え続けているうちに、妄想が膨らみすぎてたまらなくなってきたので俺の考える「末期戦的魔法少女」を自分で書いてみました。まさに自給自足。

「お兄さんはここの基地の人ですか?」


場所にそぐわぬ声に振り向けば、そこには少女が居た。


成層圏の寒さから身を守る電熱服。
高空の薄い大気に耐えるための酸素マスク。
最後の命綱となるパラシュートと、それを身体に結びつけるハーネス。


そして、体格に不釣合いなほど大きな黒い三角帽子。
いまどき珍しいくらいきっちりと整えられたパイロット用装具の中で、ただそれだけが彼女の素性を主張していた。


「その帽子、君は・・・魔女なのか?」 

「はいっ!! そうなんですよっ!! お兄さ・・・いえ、中尉さんはここのパイロットさんですか?」

「そうだが・・・」

あらためて目の前の小さな姿を眺めてみるが、どう見ても10歳を越えているようには見えない。
せいぜいが7、8歳、魔女としての素質が目覚め始める年頃といったところか。

連中の見た目が実年齢と一致しないのは百も承知だが、目の前の子供からは幻惑魔法で若返った魔女達特有の非現実的な美しさが感じられなかった。


「お師匠さんにでもついてきたのかい?それとも基地の見学かい? 誰に着せてもらったのか知らないけど、そういう服は子供が着るものじゃないんだ。さあ、返しに行こうか」


「ちがいますっ!! これ、全部わたしのものですっ!!」

「わたしたち、お国のためにずっと訓練してきて、今日やっと『じっせんかのうにんてい』をもらってここに『はいぞく』されたんですよっ!!」


・・・なんてこった。

燃料不足で防空戦闘どころか訓練飛行すら難しくなってきているこの国の空軍が、自らの精神力のみを頼って飛ぶ魔女達を戦力として活用しようとしているという噂は聞いていた。
それがこんな少女たちとは。


「ちょっと基地のなかを探検していたらまよっちゃって。『かくのうこ』に出るにはどっちに行けばいいんですか?」

「格納庫ならそこの廊下を曲がって・・・いや、判りにくいな。連れて行ってやろう」

「ありがとうございますっ!!」


子供らしい満面の笑み。
新品の飛行服には酷く不釣合いなそれが、なぜかとても眩しかった。



「あれが私たち『まどうとつげきぼうくうひこうたい』ですよ」

彼女の指差す方を見れば確かに同じような年恰好の魔女、というより魔法少女たちが格納庫前のエプロンに整列し、思い思いに装具の点検やほうきの整備を行っている。

「それじゃ、私はみんなのところに戻らなければいけないので。お兄さ・・・いえ、中尉さんありがとうございましたっ!!」

返事をするまもなく走り出す彼女。
重い装具を付けたまま器用に走るその姿は、確かに訓練を受けているというのは嘘ではないようだった。



「近所の子供達か何かと思えばあの嬢ちゃん達が栄えある新配属の部隊、わが国期待の魔導突撃防空飛行隊らしいじゃないか。笑わせてくれるよ、ええ?」

なじみの整備班長の言葉に、振り向かずに答える。
「そっちはいいんですか? 戦闘機とは畑違いでも、彼女達のほうきだって立派な機械でしょうに」

尾部には成層圏まで上昇するための固体ロケットブースター、柄には地上管制からの誘導を受ける為の無線機と各種のアンテナ。
初めて目にする「それ」は、ベースとなる木製のほうきに機械部品をデコレーションしたまさに異形としかいいようのないものだった。
そして先端に取り付けられた大量の空対空ロケット弾は、「それ」がまぎれもなく兵器であることを主張している。


「それがよ、嬢ちゃん達の魔力?だか精神力だかなんだかを動力にしているんだと。そんな訳の判らないものどうやって整備しろっつうんだよ」
「専属の整備隊が付いてきているそうだし、あんたら搭乗員と同じく俺らも商売あがったりよ」


横たわる沈黙。
ふたまわりも幼い娘達に自分達同様、いやそれ以上の重責を負わせていることに対しての負い目がそこにはあった。



「・・・なぁ、嬢ちゃん達がどうして普通のパイロットみたいな装備をしてるか知ってるか?」

「成層圏まで上昇するからでしょう?」

「あの娘らはな、本当に『まっすぐ飛ぶ』魔法しか出来ないんだそうだ。普通の魔女なら周りの空気を操って低温や薄い酸素から身を守れるらしいが、それすら出来ないひよっこ共と言うわけよ」

「そんな・・・ 昔ならいざ知らず、最近の敵重爆編隊には護衛機がつくのが普通の事になっているじゃないですか! そんなのすぐに落とされる!」


「─────」
答えは同時に鳴り出しサイレンにかき消され聴こえない。


『警報 警報 敵、戦爆連合およそ300機 方位124 地点ハ-2付近を進行中 各防空部隊は全力でもってこれを迎撃せよ  繰り返す ・・・』

スピーカーががなり立てる。

「傾注!! これより我が隊は全力をもって発進、敵編隊を迎撃する。 目標は敵重爆、それ以外には構うな!! では、全員編隊離陸隊形にて滑走路に整列。 かかれ!!」

年かさの一人が声を張り上げ号令し、魔女たちが滑走路に整列する。

隊列の最後尾で、さきほどの少女が此方に手を振っているのが見えた。

指揮官らしい娘が何事かを叫ぶと同時に魔女達は一斉にほうきにまたがり、次の瞬間あたりは固体ロケットブースターの猛烈な噴煙に包まれる。
滑走路に並んだ時の隊形を保ったまま、魔女達は空へと駆け上っていった。



「あの中で・・・何人が帰ってくるんだ?」

そして、辺りに小さな魔女達の残したロケットモーターの噴煙が漂う中、誰が発したともつかないこの言葉だけが無人の滑走路に虚しく響いた。
(続かない)

ロケットモーターで離陸・機首に大量の空対空ロケット弾装備あたりから判るとおり、モデルはBa349「ナッター」です。


そして、俺がtwitterに投げた以下の独り言に対し、

「末期戦的魔法少女」という検索キーワードから妄想が広がりすぎてもうだめ

Twitter / a_park

魔法少女は10歳くらいで1人前、13,4歳じゃとうがたちすぎてるから7〜8歳くらいの箒の乗り方も知らない、せいぜいが動物と話せたりハロウィンに菓子をねだったりすることしかできない小娘まで動員されるのかと思うと末期戦ってのはつくづくいやだなあとか思う。

Twitter / crow_henmi

id:crow_henmi の上記の返しが今回の発端になったと言ってもいいかもしれません。アイディアどうもでした。

*1:現在は俺の各種発言のみ引っかかります