最近の読書あれこれ
「あとで書く」 いつまで経っても 「あとで書く」
読了本がひたすら積み上がっていくままになされていた机の上を整理しようと、一念発起してまとめて感想。
やはり読み終えた直後にその勢いのまま書くか、それとも感想記事を書かないものと決めて本棚にしまって次の未読に取りかかるべきですね。何事においてもそうだけど、「時間が出来たらやる」というのはすなわち未来永劫やらない宣言に等しいのです。
百舌谷さん逆上する 1 (1) (アフタヌーンKC)
篠房 六郎
何だったら教えよっか? ひとりぼっちで居ても全然傷つかなくて平気な理由
初めっから期待しない事よ 何も
この世界にも そこにうごめく全人類にも
ツンデレを「病気」として扱う、と言うそのアプローチの奇抜さに目をくらまされてしまいがちなのがこの作品。しかしそう言った表面から一歩踏み込めば、そこにあるのは「空談師」や「ナツノクモ」と言った篠房六郎のこれまでの作品と同様に、人と人との相互理解についてとことん突き詰めるお話でした。
ネットゲームを舞台にすることにより、「ゲームの中だけの繋がり」から人間関係を語る「空談師」「ナツノクモ」と、他者から示された親しみに無条件で反発してしまう「ツンデレ病」の少女からコミュニケーションを描く「百舌谷さん逆上する」は根っこの所では実に良く似ています。が、今回は見た目のわかりやすさとオタを惹き付ける要素(百舌谷さんの「金髪釣り目ツインテールツンデレ小学6年生」は属性として無敵すぎる)に満ちていて、今度こそは前2作のように打ち切られず描きたいことを全て描ききって完結して欲しいと思うばかりです。「ナツノクモ」……(泣
あたらしい朝 1 (1) (アフタヌーンKC)
黒田 硫黄
仮 装 巡 洋 艦 ! !
舞台は第二次世界大戦中のドイツ海軍の仮装巡洋艦「トール」、主人公は水兵。
そんな舞台設定で居ながらも「戦争物」臭さがほとんど無く、軍隊の緊張感と若者ならではの奔放さが入り交じり、ある種の青春物語とでも言うべきものに仕上がっているのは流石としか言いようがありません。何気ない日常描写の積み重ねが不思議と面白いんだ、本当に。
俺はこの作品が初めての黒田硫黄で、一冊読んだだけですっかり気に入ってしまいました。他の作品も追いかけてみよう。
A君(17)の戦争-I,THE TYCOON?-1 (角川コミックス ドラゴンJr. 124-1)
豪屋 大介
1ページ目の主人公への問いかけ、「確かに貴方は苛められてはいないし──」であまりにも仰天してしまってしばらく声が出なかった。その設定を変えちゃ駄目だろ。
周囲から無視されるどころか積極的に(苛めという形で)攻撃されていた「A君」こと小説版の主人公と、ただひたすら周囲から「存在しないもの」として扱われているだけのコミック版の「A君」にはそれだけでは片付けられない差があります。
小説版の戦争の才能だけは横溢している人格破綻者が、コミック版ではただの頭が回る歴史好きの目立たない少年になってしまい、あの作品全体を貫く妙な毒気が抜けてしまっているのです。
……小説版は小説版で、巻を追うごとにその「毒気」が強烈になっていき、しまいにはファンである俺にも擁護しかねる段階にまで達していたので、コミックがこれくらい薄味で始まればそのうち適度になるのかも知れませんけど。
撃沈された船員たちの記録―戦争の底辺で働いた輸送船の戦い (光人社NF文庫 (とN-569))
土井 全二郎
「ダンピールの海 - 戦時船員たちの記録」というタイトルで新書版だった頃に図書館で借りて読んでいたものを、文庫落ちを機会に購入して再読。
あまりにも直接的すぎる文庫版のタイトルを知った時には、もう少し洗練させようがあっただろうにと思った物ですけれど、載せられている船員たちの凄惨な戦争の記憶の前にはどんな美辞麗句も色あせるわけで。この直球過ぎるタイトルが、逆に内容をこれ以上ないまでに象徴しているのかもしれません。
戦争末期の船員は何度も船を沈められた超ベテランと速成教育を受けた子供だけ(中堅はみんな死んでしまった)と言った記述を読むと、その悲惨さにただもう圧倒されるしかない。
ウィザーズ・ブレイン 7上 (7) (電撃文庫 さ 5-11)
三枝 零一
既に7巻11冊を数えるシリーズの最新刊の展開について詳細に述べても知らない人にはさっぱり理解できないだろうし、かといって「ウィザーズ・ブレイン」という作品そのものについて語るにはこの余白は狭すぎる。
少しだけ語らせてもらえば、広義の能力バトルものに含まれる作品なのにメインキャラクター達のほとんどが面識がある「お友達」状態なので、バトルが命のやりとりにならないで予定調和になってしまっているのが今回の一番の問題かと。
だがそれでも、中盤の雲上航行艦+「竜使い」のエド&ファンメイ VS 「騎士」+「光使い」のディー&セラの複数戦は相変わらず心が沸き立ちました。能力バトル物の常で、それぞれ非常に何かに特化し強みと弱みがはっきりした「性能」のキャラばかりであるため、それが複数人でチームを組んで戦うことになるとやたら面白い展開が発生するのです。
「○○と△△が戦ったらどういう展開になるか」という対戦ダイアグラム妄想と、魔法関係の設定の物理学議論だけで盛り上がれる、それが「ウィザーズ・ブレイン」ファンって奴さ!!