偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

ニコマスPの、あるいは全ての創作者の憂鬱

手記‐ニコニコ動画(ββ)

スレに書き込まれる自分のURLとアピール文。
やった、やった。
気恥ずかしさもある。けど、何よりも嬉しさの方が大きい。
これで自分も。
自分もノベマスPになれたんだ、と。
ヤニの染みついた天井を見ながら心の中でガッツポーズを取った。

やった!目論見通りだ!
単発動画だけど再生数が500を越えた。
やっぱりこういう方面が受けるんだ。
さっそく連載している動画のプロットを書き直す。
もっと再生数が欲しい、もっとコメが欲しい。
だから皆に受け入れられる方面に変えていこう。

ただ皆に見て欲しかった。
ただ皆に共感を覚えて欲しかった。
ただ皆に……褒めて欲しかった。


そんなに僕の動画はつまらなかったんだろうか。
わからない。
でも伸びなかったことが罪。
誰も相手にしてくれなかったことが罪。

NovelsM@ster、通称ノベマス。ニコニコ動画でのアイマスMADの一ジャンルでの「新人」動画投稿者の心情を綴った私小説的な動画が今回の記事で取り上げた「手記」です。
自分がノベマス制作者の仲間入りを出来たこと、自分の作品が誰かに見てもらえることを素直に喜んでいた「僕」が、再生数とコメントの魔力そして他のノベマス制作者への嫉妬に取り憑かれ、次第に手段と目的を取り違えて堕ちていくさまが克明に描かれていきます。
黒い背景に淡々と文字だけが流れていくスタイルと内容があいまって、言いようのない異様な迫力があります。ラストの「僕」の慟哭の下りは思わず見入ってしまいました。


この動画の内容、けしてニコ動ノベマスPに限ったことではないのですよね。
アクセスの少ないWebサイト管理人、売れない同人サークル主、etc…… 何かしら趣味の分野で「他人に見てもらう」ものを創っている全ての人に当てはまるのではないでしょうか。


俺には、ここで「他人の反応なんか気にしないで自分の好きなようにやればいいんだよ」と、気軽に「僕」の苦悩を切って捨てることがどうしても出来ません。
誰かに評価してもらう事・ノベマスPという立場そのものが目的になっている感があり、そこに多少引っかかりを覚えはします。だけど、動画の中で評価されて喜ぶ「僕」、再生数を稼ぐために泥沼にはまっていく「僕」、それは俺にだってきっと当てはまる。
同人は浮き沈みやら周りを気にしたりするほどのキャリアがまだないので、俺の場合に当てはまるのはサイト&ブログのアクセスあたりでしょう。
動画掲載のタイミングを人が来やすい金曜の夜にあわせるなんて身に覚えがありすぎますよ。


とはいえ、俺の場合は半分くらいは無意識に、半分くらいは意識して競争相手の居ない(=他人との比較を意識する必要がない・書くだけで取り上げられやすい)ジャンルや題材を選んでいるところがあるので、この動画のような悩みを抱えることはあまりなかったり。
正確に言えば、意図的にこの種の悩みに気持ちが向かないようにしているという方が正しいかもしれません。日記サイト時代から数えればそろそろ7年に渡ってWebで書いているキャリアの長さによる慣れもあるのでしょう。


なので、自分自身に関してはある程度までは「他人の反応なんか気にしないで好きなようにやればいい」を貫ける自信があります。が、それを他人に適用してしまうのはまた別問題ですしね……
他者からの評価を100%無視できる人間は、既に人間としての社会性を喪っている何か別のものでしょうし。



と、ここまで長々と書いてきましたが、「手記」の作者の方が現在もニコ動で活動を続けているようなのが俺にとっては何よりも嬉しいことだったりします。
続けていればきっといいことが……とは言いません。それでも、折れないでいてくれたことが他人事ながらなんだか嬉しいのです。


関連リンク

NovelsM@sterとは (ノベルズマスターとは) - ニコニコ大百科
今回取り上げた「手記」が含まれるジャンルであるNovelsM@sterについて。アイマスMADの世界はあまりに広大すぎ、門外漢の俺には何がなにやら……

手記Pとは (シュキピーとは) - ニコニコ大百科
「手記」の作者の方の項目がニコニコ大百科にあったのでリンク。
余談として、観ていてこの方の文章は動画より小説やノベルゲームに向いた文体なのでは、と思ったり。
文章自体はかなり読ませる方だと思うんですよね。