初めて明かされる内情 - 「かたわ少女」開発スタッフ講演書き起こし公開
先日オーストラリアのメルボルンで開催された”MAniFest”(Melbourne Anime Festival)にて行われた「かたわ少女」開発スタッフによるパネル講演の書き起こし日本語訳が公開されました。
書き起こし全文はこちら:Katawa Shoujo Forums • Manifestパネル書き起こしの翻訳
以前より開発ブログを通して開発スタッフ達の声を聞くことは出来ましたが、彼らのあけすけな「生の声」が日本語圏のインターネットに届いたのはこれが初めてではないでしょうか。
講演をおこなったのは本作品のプロデューサーであるCpi_Crud氏とSuriko氏。二人とも本作品のシナリオライターでもあります。
原文は大変興味深いものの、ビジュアルノベルの歴史についてから語り起こしていて非常に長いので、俺が個人的に気になったところ、面白かったところをかいつまんで幾つか紹介してみます。
世界に散らばる開発チーム
Crud: そう、世界中に20人くらいの開発者がいます。メルボルンには一人もいません。私はシドニーから来ていて、こちらのライアン(筆者注:Suriko氏のこと)はタスマニアから、このイベントのために飛行機で飛んできました。
私たちは3……いや……ほぼ4年前に、とある場所で見つけたイラストがきっかけで集まりました。
ある人の同人誌に載っていたその一枚の絵から物語を考え出したんですが、その絵には5人の女の子がいて、みんな何かしらの障害を持っていました。「じゃあこれで行こうぜ」とみんな思ったんです。
Crud:(前略) 次は琳ですね。ライターはAuraです。彼は……フィンランド出身だっけ?
Suriko: フィンランド人です。
Crud: そうです。彼はフィンランド人なので、英語は実は彼にとっては第二言語なんですが、早いうちから彼は我々の中でも実力があるほうだと感じました。どうしてこれでうまくいったのかはよくわかりません。
Suriko: 彼はどのライターよりも英語がうまいと思うよ。ちょっと恥ずかしいけどね……
Crud: すごい恥ずかしいよ。ほんとに。自分の人生丸ごとかけてある言語を学んできたのに、突然どこかの誰かが2,3年でその言語を勉強して、琳みたいなストーリーを書いちゃうんだから。
Suriko: (前略)世界中から、あらゆるタイムゾーンから参加しています。タイムゾーンは、ご覧の通りですけど、本当にひどいです。私はタイムゾーンが大嫌いですね。あれは最悪です。
Crud: パネルの打ち合わせをしていたとき、ノートPCを2台用意して、一台はプレゼンに使って、もう一台はSkypeのチャンネルにつないで、他の開発者にも参加してもらおう、とか考えてました。
最初は「おおそれいいじゃん」とか思ってたんですが、確か2週間くらい前に Auraが、パネルが始まるのはオーストラリア時間で昼の12時だと言ってきたので、私が「参ったな、ロンドンは午前2時でドイツは午前4時だぜ」とかいろいろと返して、結局「じゃあやめるか」となりました。なので今日は衛星中継で参加する人はいません。
圧倒的なダウンロード数
Crud: Act 1をリリースする3ヶ月か4ヶ月前、俺が気合い入れ始めてる頃にdeltaが言ったと思うんだけど - 俺は配布のルートがちゃんと動いてるかどうか確認してた。普段からファンサブをたくさんやってて、ほしがっている人やトレントに全部行き届くように、入手ルートが十分確保できるようにしていたんだ。それであいつが言ったのは「誰が気にするっての、50人くらいしかダウンロードしないって」
観客: 有名な最後の言葉だね。
Crud: そう、有名な最後の言葉。最後にチェックしたときは、400000かなにかだったっけ?
Suriko: ああ、webサイトからは40万くらいだった。俺がチェックしたときはFakkuで25万くらいあったと思う。トレントは含んでないけど。
スタッフ間の確執
Suriko:スタッフ全員……スタッフは世界中からたくさん集まっています。(中略)だからスタッフ間のつながりはすごく大事で、全員がIRCに出入りしています。IRCはただのチャットプロトコルで、みんな毎日入ってます……まあ、ほとんど毎日。
Crud: (笑い)
Suriko: というか、ほとんどのメンバーが毎日います。開発者は極力顔を出すようにしています。この数年間……確か、もう開発が始まってから4年くらいだったっけ?
Crud: そうね。
Suriko: 3,4年ですね。その間ずっとIRCでみんなお互いに連絡を取り合ってました。私たちをつなぎ合わせたのはそれだけです。みんなお互いに知り合いだし、お互いの話を聞くし、何人かは仲良くなって、何人かは……仲良くなってません。
Crud: そうだね、そんなには……
Suriko: 友達じゃありません。deltaとA22は特に。
Suriko: あの二人は猫と犬みたいだね。俺たちもできるだけ二人を離すようにしてます。はい。
Crud: (笑い)
Suriko: というか、フリーでも商業でも、大きな開発チームがあると、互いに反発し合う人たちってのは出てくるものです。それにどう対処するかの問題ですよ。
Suriko: ヒロインごとに担当の絵描きがいます。これまでたくさんの絵描きが入っては去っていきました。開発している間ずっと、イラストはたぶん……調整するのに一番苦労した、とでも言うかな?
Crud: そうだね。
Suriko: そう。理由は、とにかく……絵っていうのは絶対に不可欠なんです。
Crud: この中で絵を描く人はいますか? 言っておくけどここでは採用はしませんから。それは前にもやったことがあるんで。
自分の画風で描いたものを他の6人の画風と組み合わせて、自分の立ち絵のセットを完成させるというのは結構時間がかかるんです。しかもやり通すのがとても難しい。
それに絵描きの人たちは積極的でないことが多くて、彼らは文章を書きません。
ライターはいすに座って毎晩5,6時間くらい書き続けても楽勝です。それが仕事ですから。でも絵描きとなると、彼らは基本的に、ペンをひらひら動かして、きれいな絵を描くわけです。
私たちとはあまり付き合いがないし、最初のうちは私たちの話を聞いてもらったり、逆に彼らから話をしてもらうのはとても困難でした。今でも私が話をするのは華子のイラストを描いているWeeeだけです。
Suriko: 絵描きとライターのコミュニケーションは、ほとんどが各ルートのライターと、そのルート担当の絵描きの間にしかありません。私はほとんどRaide(ライデ)とだけ話してます……彼の名前をなんて発音するのか知らないんだけど……
Crud: 俺はRaide(レイド)って言ってる。
寄付について
観客: 寄付は受け付けたりはしないんですか?
Crud: しません。
Suriko: しません。これ実は過去にも何度か話題になったんですけど。「何度か」というのは過去何十回もという意味です。私たちのスタンスは、このプロジェクトにお金の要素が入るのはごめんだ、ということです。お金の価値以上にトラブルの元になります。それにいくらお金が積まれたところで、私たちみんなが今までつぎ込んだ時間が減るわけじゃありません。
Crud: お金が入ったら私たちはだめになります。
Suriko: これまで私たちが言ってきているのは、もし私たちに寄付したかったら、慈善団体、特に障害者向けの団体に寄付してください、ということです。そっちの方が私たちよりもよほど有効にそのお金を使ってくれます。だからそういう団体に寄付してください。慈善団体はすばらしいです。
18禁シーンについて
Suriko: (前略)真のメインヒロインというのはいません。ヒロインは全員平等で、「このキャラを攻略しないと真のエンディングが見られない」とかいうのはありません。
アダルト向けの内容もあります。この子達とセックスすることになります。それは良いことでも悪いことでもあります……俺たちみんなセックスのシーン書くの好きじゃないと思います。
Crud: ないね。
Suriko: 絵を描くのもみんな好きじゃない。
日本からの反応について
観客: 日本での反応はどうでしたか?
Suriko: 実のところ……
Crud: 上々でしたね……
Suriko: かなり好意的でした。一つ気をつけておきたいのは、日本人はご想像の通り、何百何千のビジュアルノベルから選ぶことができるってことです。
Act 1をリリースしてから、日本からの関心が大きかったことには非常に驚きました。大きすぎるってほどではなくて、ものすごい量の関心というわけではありませんが、外国人でもビジュアルノベルは作れるんだ、と驚いているようなリアクションでした。
私たちもそれを見て結構自信が付きましたよ。よかったです。それと、日本人が「翻訳はどこだ?」って言ってるのを見るのは面白かったですね。普段は私たちがそう言うことを聞く立場なので、そういうのを見られたのも良かったです。
今後の展望
Suriko: はい。ここにはリリース日が書いてあったんですが。Auraが消せって言ったんで……今年の末か、2011年にはリリースしたいと思ってます。これ言ってもあいつに殺されはしないと思います。もしダメだったらAura、バラしてごめん。
Crud: はい。私たち、というか、deltaがAct 2のディレクションを1,2週間前に終わらせたんだっけ? これでAct 2はもう少しで完成っていうことになるかな。
Act 2を個別にリリースはしないんで……残念でした。ごめんなさい。それをやるのは難しすぎるので。
Act 1は単体のパッケージとして動かせたけど、それはある意味みんなへのイントロだったからです。こういう風に話に入って、こういう風にそれぞれのルートに分岐していく、っていう。
Crud: 信じて欲しいんだけど、私はこれを終わらせたいと思ってます。もう他のものに進みたいんです。この前自分に向かって言ったんですよ。「やりたいことのアイディアがいくつかあるけど、KSが終わるまではやめておこう、KSに集中しよう」って。
Suriko: ストレスがあるんですよ。というか、もう3,4年間、20人くらいの人たちとオンラインで、無償で、ボランティアで作業をし続けているわけですよ。そういう人たちの本当にささいなことを気にしだして、それが大きくなって、やがてただのストレスになる。これは……私はみんなとのつながりを失いたくないんです。開発チームの中に友達もいます。でもいずれは前に進まなくてはいけない。
観客: ゲームがリリースされた後もチームのみなさんは一緒に続けるんですか?
Crud: ないですね。それはない。友人としては一緒に居続けると思いますが、この人数のチームで何か別のものをリリースする、というのは多分不可能です。みんなそれぞれにこれからのアイディアを考えてますよ。
Suriko: そう。今後の方向をすでに考えているメンバーは多いです。それぞれ異なる方向に進んで、新しいものを作っていくと思います。ただかたわ少女を作った20人の開発者集団としては、それがそのまま完成後も続くことは多分ないですね。
Crud: 内部にも緊張が多々あるし、さっき言ったようなストレスもあります。チームのメンバーのうち特定の何人かとまた一緒に何か作業しなきゃいけないとなったら、私は自分の髪の毛を引っこ抜くと思います。だからなしです。
私はやりたいことがあるし、他のみんなもやりたいことがあるとわかってます。みんなのアイディアも時にはいけてるので、「あれなら俺もうまくいきそうだからあっちに混ざろう」ということはあるでしょう。
「かたわ少女」を創るということ
Suriko:(前略)大きさの話をすると、KSの大きさは割と大きな商業ビジュアルノベルに匹敵します。一つの会社が何年もかけて開発するような種類です。
膨大な自由時間が必要、というのはとにかく避けられません。仕事中でもかたわ少女のことを考えてます。私が仕事をしている間ずっと、何を書こうかって考えています。ゲームが人生の一部になってしまっています。
Crud: 多分、今華子ルートに入っている内容の1/3は仕事中に書いたものです。こういうことは言うものじゃありませんが、今の仕事に就く前の話なんで。「少し手が空いたな、どうしようか?」という感じです。昼ご飯を食べに出かける代わりに、サンドイッチを食べながらシーンやルートのメモを書いたりすることもありました。
Suriko: かたわ少女はとにかく自分の自由時間、自由に考えられる時間全てに忍び込んできますね。考え得る限りあらゆるものにしみこんできます。もう何年も経ってますが、おかげで開発者の多くがもう燃え尽きているんです。手が遅くなり始めてます。あと数年以上はもう持たないと思います。
Crud: あと6ヶ月でほぼ完成まで持って行けなかったら、私たちは死んじゃうと思います。
Suriko: まあとにかく、すごく楽しいです。とんでもなく楽しい。他の何にも比べられません。
ただし、私たちのことは何でも参考にできると思いますが、私たちの真似はしちゃだめです。私たちのやり方は間違ってたし、本来ならかたわ少女は死んで、埋葬されて、消え去っていたはずです。
あとはまあ、とにかく……作ってください。楽しいですから。
- 講演の際に公開されたデモムービー