偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

籘真千歳イズムここにあり - 【θ/シータ】 11番ホームの妖精: 鏡仕掛けの乙女たち

【θ/シータ】 11番ホームの妖精: 鏡仕掛けの乙女たち (ハヤカワ文庫JA)
【θ/シータ】 11番ホームの妖精: 鏡仕掛けの乙女たち (ハヤカワ文庫JA)

東京駅上空2200mに浮かぶホームには、銀の髪と瑠璃色の瞳を持つ少女と白い狼が住んでいる。彼らは忘れ去られた約束を信じて、今日もその場所で待っている。―high Compress Dimension transport(高密度次元圧縮交通)―通称C.D.「鏡色の門」と鋼鉄の線路により、地球の裏側までわずか数時間で結ばれる時代。春の隠やかな午後、東京駅11番ホームに響き渡る突然のエマージェンシーコールが事件の始まりを告げた…。
Amazon掲載の電撃文庫版あらすじより引用)

電撃文庫から2008年に刊行された「θ(シータ)―11番ホームの妖精」に、加筆・修正を加えて2014年にハヤカワJAより復刊されたのが本作。
同著者の「スワロウテイル」シリーズが好きで追いかけていたので、著者のデビュー作であるこちらにも手を出してみました。


「デビュー作にはその作家の全てが詰まっている」なんて言われることがありますが、本作はまさにそれを体現するかのような作品でした。
上記のあらすじを見る限りでは、近未来SF的な要素を盛り込みつつ”東京駅11番ホーム”を訪れる乗客達と主人公の少女のふれあいを描くような作品だと思うじゃないですか。駅と、住み込みの駅員と、駅を通り過ぎるものたちの間でちょっとした事件のおきる一話完結の短編集のような。
それは全く間違っていないんですが、しかし本作の一面しか表していません。

個人の物語からスタートして、いつの間にかそれが物凄い勢いでスケールが拡大していってスムーズに世界全体の物語に繋がってしまうという構成は後に「スワロウテイル」で結実するそれの萌芽を思わせるものがありました。異能者と社会の関係、ロリババア血統主義ベースの「天才」、エキセントリックな科学者のキャラクター造形あたりも通じるものがあります。
外連味を発揮するべきところでは全力を出して最高に格好いい絵面を作ってくるあたりも既にデビュー作から確立した作風。作中で設定した未来技術の延長戦としての異能者の異能バトル展開を書くの上手いんですよね。


3編収録のこの1冊で綺麗にまとまっているので、籘真千歳作品入門としてぴったりかと思いました。
スワロウテイル」とは別にこちら「θ」もシリーズ化しての続刊が予定されているとのことで楽しみでなりませんね。

余談


インドに長期出張してきたので本場のインド飯画像を貼りまくる

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諸事情で9月末から10月の頭にかけて10日間ほど北インドの地方都市へ出張に行っていました。
当然ながら滞在中はずっと現地の食事、すなわち本場のインド日常料理を食べていまして、それをTwitterに逐一アップロードしていました。
思い出を記録に残し、同時にインドの日常食を紹介すると言うことでBlog記事にまとめてみます。

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艦これオンリー同人誌即売会 in 大湊 - 砲雷撃戦よーい!十九戦目 参加レポ

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2014年4月、2014年10月の開催に引き続き3回目の開催となった大湊での艦これオンリー即売会へ参加してきました。
八戸にフェリーで上陸して北上して参加した2014年4月とは異なり、今回は青函トンネル経由で本州に渡る0泊3日の強行軍です。

本州の滞在時間が24時間ないくらいのあっという間の参加でしたが、中々に濃厚な体験が出来て楽しかったので簡単に参加レポをまとめてみました。

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2011年寄稿の「恋ではなく ―― It's not love, but so where near.」論 全文公開しました


「色恋ばかりが、人生じゃない」 - 『恋ではなく―― It's not love, but so where near.』論



2011年発行の恋愛ゲーム総合論集に寄稿した、「恋ではなく ―― It's not love, but so where near.」論を、完売と今後の再版の予定が無いとのことで一般公開しました。
俺がずっとファンとしてゲーム・小説を追いかけている早狩武志の、ある種の集大成であるゲーム「恋ではなく」について思うところをまとめています。

以前に公開している早狩武志論(早狩武志論 「うまくいくばかりが、恋じゃない」)と併せて読むのを推奨です。

君は「彼女の物語」を目撃する──「Her Story」 感想

In 1994 a British woman is interviewed seven times
about her missing husband. This is her story.


(1994年、あるイギリス人の女性が行方不明の彼女の夫について7回の事情聴取を受けた。これは彼女の物語である

A Video Game About a Woman Talking to the Police - HER STORY

「答えが全て既に揃っている」推理ゲーム

ゲームを起動すると現れるのは古めかしいデスクトップを模した画面。
プレイヤーのすることはこの画面からデータベースにキーワードを入力し、ヒットした事情聴取の記録動画を再生していくことだけ。



デフォルトで検索キーワードにされている「MURDER(殺人)」で検索すると4件動画がヒットします。ひとつを選んで再生すると事情聴取の動画が流れ、事情聴取されている「彼女」の言葉は書き起こしされて動画の下部に表示されます。


事情聴取の記録動画は長くてもせいぜい2分弱、短いとたった数秒のみの一言で終わるものすらあり。ただでさえ断片的な上に、それぞれ話題の焦点の異なる7回の事情聴取の記録が入り交じっているので漫然と見ていてもまったく文脈がつかめません。
またキーワードによっては非常に多数の動画がヒットすることもありますが、コンピューターが古くデータベースが断片化しているので何件ヒットしようが頭から5件しか表示されません。

何が起きたのか、彼女はどうして事情聴取されているのか。
キーワード検索を繰り返し、断片的な証言を再生していくなかでプレイヤーはそれを理解していきます。

この各々のプレイヤーごとに異なる理解していく過程、どんなキーワードを選ぶかの試行錯誤 この体験それ自体が本作の面白い部分そのものなのです。
自分がプレイしていて、開始から3時間ほどで核心に迫る証言にたどり着いて断片的な動画たちに一本通った文脈を見いだせた瞬間の衝撃といったらもう。喜びと驚きのあまり軽く叫び声を上げてしまったくらいでした。
そこに至るまでの検索キーワードの推測は全て自分の「推理」によるものだったわけで。
そうやって証言の文脈がどんどん理解できるようになっていくあの感覚は相当な気持ちよさがありました。

例えば事情聴取のはじめに飲み物を勧められて「コーヒーを1杯」と話すだけで終わる証言動画。
こんなものですら、真相にある程度近づいた後だと非常に重要な意味を持ってきたりします。
具体的にこんな証言動画があると紹介することは、その動画から得られる検索キーワードを紹介することになり、すなわちそれは本作のネタバレであるので具体的なことを何も言えないのがもどかしいことこの上ないです。


本作を紹介する記事で「推理ゲーム」という言葉が使われているのにプレイを開始した当初は違和感を覚えていました。
答え=「彼女」の証言は既に全て得られており、プレイヤーはキーワード検索でデータベースからそれを引き出しているだけなのではと。

だがその思いはプレイするうちに塗り変わっていき、いまでは俺も本作を「推理ゲーム」だと胸を張って言えます。

キーワード検索→証言→証言から得たキーワードで検索→ …… と繰り返す過程は、擬似的に「彼女」に質問して会話して事情聴取をしていく過程を追体験しているのに他ならないのです。


そして、真相に迫れば迫るほど、事情聴取で話される内容そのものに心を打たれていく事になります。
まさにこれは「Her Story=彼女の物語」。”Story”には「身の上話」という意味もあると知って膝を打ちましたね。(storyの意味 - 英和辞典 Weblio辞書



証言動画が全て英語、キーワード検索も英語で行わなければならないのが大きな壁であるとは思いつつも、なかなか味わえない「推理体験」ができるゲームなので俺は全力でお勧めしたいです。とりあえず使われている単語はかなり平易だし、証言を聞き取れなくとも動画の下部に書き起こしが表示されるので辞書片手にプレイすればなんとかなる……はず。


プレイ当時の感想