偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

これ1冊で溶接工の生活丸わかり?! - 「とろける鉄工所」

とろける鉄工所 1 (1) (イブニングKC)
とろける鉄工所 1 (1) (イブニングKC)


溶接工ではないけれど、溶接を生業にしている身としてはこの作品に触れておかなくては、と思い購入。
読んでいると登場するシーン全てを自分の体験と重ね合わせることができるくらい「リアル」に溶接工の現場を描いていて、感心することしきりでした。
いくら使っても消耗しない棒状の道具から対象に向かって大きな線香花火のような火花を飛ばすという世に溢れる適当な溶接描写の対極がここにある。台詞や地の文で説明されている以外のちょっとした溶接棒やビード、溶接機の描写も本当に手が込んでいて、まさにこれは経験者だからこそ書ける世界です。


しかし1話4ページという短さもあってか、やもすると単なる「鉄工所生活の紹介」「溶接知識の紹介」だけで終わっている部分が多くなってしまっているのが気になるところ。Webで感想を見て回ると「こんな世界知らなかった!!」と素直に感心している人が多くて驚いてしまいます。
それくらい「ただ事実を並べただけ」なんですよ、この作品は。
あまりにも当然すぎて「こんなことあるある(笑)」と笑うことすら出来ないこともありました。
これをプログラマーに翻案すれば、「プログラムって、『キーボード』と呼ばれる道具を使ってパソコンに入力するんです」程度のことが言葉を尽くして書いてあると言えば判るでしょうか。


だが、肩肘張って「面白くしよう」とせず淡々とあるがままに描いているからこそ、これほどに共感を呼べているのかもしれません。
世の中一般の人々にとって馴染みのない世界というのは、ただそれだけで物語になると言うことなのでしょう。
考えてみれば「溶接工」という世界に今まで光が当たっていなかっただけで、特殊な職業人の世界(医者・警察官・軍人etc)を舞台にその内情を描く作品というのは世に溢れているわけで。


マニアックな溶接知識紹介以外の鉄工所で働く彼らの人間模様の部分の部分についてはとても面白く読んでいるので、ゆくゆくは紹介と物語がもっと融合していってほしいですね。そしてまだまだ「紹介」する事柄についても不足はしていないだろうので、2巻にも期待。