非モテ童貞オタ25歳、メイドに恋をした - メイド諸君!(4)
- 作者: きづきあきら,サトウナンキ
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2008/06/25
- メディア: コミック
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「千代子は お前がどう思うかを考えてるのに
お前は 自分がどう思われるかしか考えてないんだ
自分が相手を好きかどうかじゃなくて 自分を好きになってくれる相手で
自分を確かめたいだけなんだろ」
きづきあきら流メイドカフェ物語「メイド諸君!」もこの巻でついに完結。
1〜3巻の感想でも書いたとおり、序盤数話はまさに理想化された接客業としてのメイドカフェ、「ご主人様達にお店で幸せになってもらうのが私たちの喜び」なお話でありそれ以上でもそれ以下でもありません。
話が動き出すのは2巻から。ふとしたきっかけで店外での姿を目撃され、常連客とメイドという垣根を踏み越えた先にあるものを描く本気のオタ恋愛物語に。
メイドカフェで起こる日常の出来事を綴った群像劇だった序盤とは打って変わり、2巻以降は主人公であるメイドの「ちょこ」と常連客鳥取の惹かれ合いとすれ違い、同僚メイド達の過去話を通し自分を偽る事についてのお話になっていきます。
ここで効いてくるのが鳥取様(彼は本当に「様」付け以外で呼ぶことが考えられない)のあまりにも痛々しい言動。
はてな匿名ダイアリーあたりで日々噴き上がっていそうな「非モテ」の方々そのままとでもいいますか。
(クリックで拡大)
もちろん「日本が誇る文化」とはアニメ・エロゲー・萌えフィギュアの事です。ネットにいっぱい居るよね、こういう人。
彼と「ちょこ」のすれ違い……というより、一方的に鳥取様が理想の女性の姿をちょこ=千代子に投影し、裏切られれば今度は自己正当化と保身に走り。それが頂点に達するのが3巻の「何で処女じゃないんですか!?」の下りであり、決定的に断絶してしまったそこからの回復(?)が描かれるのがこの4巻。
こう書くとオタクの内輪ネタ的なお話という印象を受ける向きもありましょう。が、オタク客とメイドという形を取っていますが、本質は自己愛の強い登場人物達の不器用な人との関わりだと思っています。それがオタクと言う形を取っているのは、そういったメンタリティとオタの親和性が高いから。
主人公鳥取へ掛けられる、冒頭で引用した痛烈な言葉が本作のそういった部分を象徴しているかと思います。
「お前が好きなのは自分だけだ」「お前と話していると、まるで壁と話しているようだ」
なんても言われていますしね、鳥取様は。
そして、
「うちの好きな食べ物、知ってはりますか?」
「確かチョコレートパフェ……」
「ブー それはお店のHPに書いてある設定です」
という鳥取様と千代子のやりとりが象徴的ですけれど、実際「ちょこ」=千代子のメイドとしての働いている現在以外の姿が、ほとんど描かれないのも特徴として挙げて良いところかと。
同僚メイドたちの過去話であれだけ色々とやるのだから、きっと千代子にも「昔の彼氏」とかあのあたりで相当にきつい展開が待っているのだと期待を怖さが入り交じったような感情を抱きつつ3巻まで読んでいたのですけど、結局4巻になってもそのあたりは全く明らかにならず。
逆にこれが、鳥取様が好きになったのは「メイドのちょこ」で「女子大生の藤堂千代子」でない、という繰り返し作中で語られ描写されることをこれ以上ないまでに鮮明にしてしまっています。
標準語を話していない時、特にその中でもがさつな言動の時の姿がもっとも素の千代子なのではないか、と取ることも出来ますが、こういった形で「本当の姿」をどうこう言うのが間違っている気も。状況・場所・相手によって人が違った印象を残すのは当たり前のことなのに、自らに好ましい姿(この場合は「メイドカフェのメイド」)しか見ず、それ以外の姿を受け入れようとしない為にああいう事になるわけですし。
それと、ここからは完全に俺の邪推……というより穿ちすぎな妄想を。
上京して右も左も判らない状況でいきなり秋葉原(そして成り行きでメイドカフェで働くことに)という1話の展開やコスプレに抵抗がなさ過ぎる事など、実はちょこ=千代子も相当なオタ娘なのではないかというのはずっと思っていたところだったり。これまでのきづきあきら作品の例に漏れず、きっと終盤には千代子も過去の痛々しいあれこれが明かされるのだとばかり思っていました。
実際、いまだ序盤で彼女がことあるごとに内心で呼びかける故郷に残してきた妹「かえちゃん」はキャラ作りのための妄想の存在じゃないかとすら思ってる。
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1〜3巻の感想記事。表紙のかわいらしさからは想像もつかない物語の内容に驚愕したのも昔のことです。かわいいメイドさんには棘がある。
俺がきづきあきら作品に初めて触れたのはこのとき。「メイド諸君!」の鳥取様はあまりにも極端すぎ自分と重ねて読むことは無いですけど、「ヨイコノミライ」の漫研メンバー達の痛々しさには色々とトラウマを刺激されすぎ読んでいて本当に辛かった覚えがあります。アレは辛い……