偏読日記@はてな

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「大和」「零戦」だけが日本軍の兵器じゃない!! - 「まけた側の良兵器集」

「我が国の戦中工業製品は大和と零戦だけではない」という方針は一瞬たりとも忘れたことはありません。
戦争には負けたけど、負けた中にも良いものはあるのです。それは海軍にも陸軍にも独軍にも戦中初期にも末期にもです。
(中略)
世間の関心が「大和」と「零戦」に集まる中、「他にもこんなものが当時会った、それは良いものだった」という思いで描いたもの達です。
(冒頭より)


機上作業練習機「白菊」 特殊潜航艇「甲標的」「回天」 地対空誘導弾「奮竜」 水陸両用戦車「特二式内火艇」……
旧日本軍の一般にはあまり知られていない兵器について、主にハードウェアの面から解説したのが本書。


一等輸送艦の艦首の角度。特二式内火艇の装甲版の平面構成。甲標的丁型のシルエット。形状・機能について「ここが素晴らしい」「ここが好き」と熱を帯びて語るその言葉は、まさに兵器に目覚めた少年の心そのままです。この記事の最初に引用した著者の言葉通り。

そんな熱意による語りだけで全編が構成されていれば単に紹介されているマイナー兵器達を礼賛する本になってしまいそうな所ですが、むき出しの情熱を振りまくだけで終わっていないのがこの本をこの本を際だたせているところ。
全くの私情による記述と並列して、対象となる兵器そのものに対してとても冷静な視線を注いでいるのです。あくまでも工業製品、機械として語っていきます。
優れた点を紹介・解説すると同時に劣っている部分についても手を抜かないところが、全体として非常にバランスの取れた記述にしています。


印象深かったのは特攻兵器「桜花」「回天」に対しての視線の鋭さ。とかく搭乗員達の心情にばかり着目した情緒的・悲劇的な描かれ方をしてしまいがちなこれらの兵器に対し、感傷を廃して純粋に「兵器=軍用機械」としての視点に立っています。
……メカニズム面に徹して解説すればするほど、誘導装置に人間の頭脳を使うという特攻兵器の非情ささが際立ってくるのですけれど。


また、冷静な熱意のこもった解説文と一見そぐわないように思える判らないことに対する謙虚な態度も見どころか。
取り上げているものがどちらかと言えば知名度の低いものであり資料や証言が少ないため、解説でも「この部分の詳細不明」「この機構/部品の用途不明」といった記述が散見されます。
そこで推測で語るのではなく、判らないものは判らないと割り切り本文の中で情報提供を求めることすらしてしまうのは驚きでした。

そしてイラスト・文字による解説ページの他に、各兵器ごとに10ページ前後の漫画が付いてます。
俺は「特潜の使われ方」(甲標的丁型「蛟龍」の解説)での電波標識装備型「蛟龍」と硫黄島偵察の百式司偵の話が一番好きです。「戦場まんがシリーズ」あたりに混じっていてもおかしくないですよ、これ。


恐ろしく詰め込まれた文字、散漫なレイアウトはお世辞にも平易で読みやすいとは評しがたいです。けれど、そこに込められた情熱と敬意は最高級の本物。
単なるマイナー兵器礼賛本と見まがってしまうようなタイトルだけど、中身はひと味違いますよ。


まけた側の良兵器集
まけた側の良兵器集