偏読日記@はてな

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極北の戦場を駆けた勇者たち - 「フィンランド軍入門」

フィンランド軍入門 極北の戦場を制した叙事詩の勇者たち (ミリタリー選書 23)

フィンランド軍入門 極北の戦場を制した叙事詩の勇者たち (ミリタリー選書 23)

フィンランド軍の所帯の小ささに見合わない勇戦ぶりは、それを知るものの間では高名なものです。

俺も1939年の通称「冬戦争」を描いた「雪中の奇跡」、1943〜45年の通称「継続戦争」を描いた「流血の夏」の2冊を通してフィンランド-ソ連の間の戦争についてはある程度まで知っていました。

が、総体としてのフィンランド軍について系統立てて学んだことがなかったので手に取ってみたのが本書。
そんなフィンランド軍の成り立ちから編制、使用した兵器から被服・徽章までを網羅しています。まさにフィンランド軍について知りたければこれを読め、という本。


前述の「雪中の奇跡」「流血の夏」は戦史と言うより戦記的な意味合いの強い内容であり、個別の戦争や特定の戦場での出来事、そこで活躍した人物に重点を置いています。しかし本書はそれと異なり、あくまでフィンランド軍全体についての記述が続きます。「雪中の奇跡」と呼ばれ、「冬戦争」を扱った書名にもなった1940年1月6〜7日のフィンランド軍の大勝利*1も、数ある戦いの一つとしてしか扱われません。
ために上記2冊ほどのドラマチックさはないものの、逆に総体としてのフィンランド軍をバランスよく知るにはこれ以上ない1冊だと言えると思います。


読んでいて目につくのはとかくフィンランド軍の「特殊さ」いくつか例を挙げれば、

むかし「フィンランド空軍戦闘機隊」を読んだときにも思いましたけど、フィンランド空軍とソ連空軍の損害比ははっきり言って異常。例えばMe109Gを使用してのフィンランド空軍の損害比がフィン:ソ = 1:23(フィンランド軍が1機落とされている間にソ連軍は23機落とされる)とかもうね。

  • 兵科色徽章一覧に妙な学校が

各種兵科色徽章の一覧を紹介したページで、砲兵養成学校・士官養成学校・海兵養成学校等に混じって、「蹄鉄工養成学校」なんてものに単独の兵科色が割り振られているのが不思議すぎる。俺が知らないだけで、馬匹を大量に使用する軍隊ではそういった専門職も内部で養成されるものなんですかね。

  • 捕獲兵器だけで1個師団を編成

フィンランド戦車師団の戦車163台中100台がソ連軍からの捕獲品。さらに残りの車両も武装をソ連軍からの捕獲品に換装し「ソ連化」
「近代戦史史上、大半が捕獲した兵器で編成された師団規模の部隊を実戦投入したのはフィンランド軍だけであろう」(本文)なんて書かれていますが、むしろ他にいたらびっくりですよ。
他にも砲兵部隊の装備の主な「供給源」がソ連軍が遺棄したものを回収して再利用することだなんて書かれていて涙を誘います。


さらにフィンラド軍そのものについてではないですが、フィンランドとソ連の間のラドガ湖でイタリア海軍の魚雷艇部隊が活動していたなんて記事にも驚いてしまいました。
初めはフィンランド軍にイタリア軍部隊(それも海軍)という記述を見て冗談かと思いましたが、遙か地中海から3000km近く陸路と海路を併用して魚雷艇を輸送してきたとのことでした。がんばりすぎ。
しかも数隻のロシア海軍艦を撃沈したりと活躍しているのがまた。派遣されてきていたイタリア海軍兵たちは1943年春までに帰国しても、魚雷艇自体はそのままフィンランド海軍に売却されてその後も活躍しています。


俺が個人的に一番興味深かったのはフィンランド軍の動員体制に関する一連の記事。初めドイツ式の動員体制を導入したものの、大規模なドイツ軍のために考案されたそれでは混乱を招くだけと言うことが判り、最終的に基幹部隊と軍管区を基本にしたシステムに移行した、というのは大国の軍隊と小国の軍隊の違いを如実に著したエピソードなのではないかと思います。
「小国の軍隊」というと戦場での姿ばかりを思い描いてしまいますけど、国自体が小さいが故にこういった部分も影響を受けるのだな、と今更ながら思い知っていました。


<関連リンク>
フィンランド空軍戦闘機隊 - 偏読日記
雪中の奇跡 - 偏読日記

*1:兵力数3倍の敵と戦って10倍の損害を与える