「メロディ・リリック・アイドル・マジック」感想
メロディ・リリック・アイドル・マジック (ダッシュエックス文庫)
東京都沖津区―国民的アイドルグループ・LEDに叛旗をひるがえした女子高生アイドルたちがしのぎを削る街。高校入学に合わせて学生寮に入った「吉貞摩真」はそこが沖津区アイドルたちの根拠地であることを知る。しかし彼にはアイドルを好きになれない理由があった。一方、同じ寮で暮らす「尾張下火」は学校一の美少女「飽浦グンダリアーシャ明奈」に誘われ、アイドルグループを結成する。しかし彼女にはアイドルにまつわる暗い過去があった。言葉にできない二人の秘密が交錯するとき、アイドルの持つ真の力が明らかになる。メロディアスでリリカルなアイドル・熱血ラブコメディ、登場!
Amazonより
とある理由からアイドルどころか音楽そのものを忌避する少年と、一度はアイドルの道を選びながらも挫折した少女。
ひょんなことから知り合った彼らは、周囲の人間たちに巻き込まれ、巻き込み、アイドルグループ『メロディ・リリック・アンド・チューン』を結成していく──
(地下)アイドルとその(素人)マネージャー。表現者と、表現者を理解し支える者。
ほとばしる若い情熱に圧倒される実によい青春物語でした。
それにつけても石川博品は 本当に 文章が 上手い な
音声も動きも視覚的に表現できない文章だけの力でライブシーンを描写して読者の胸を打つってのがまず信じられないです。ことさらに美文を誇るのではなく、ごくありふれた表現、単語で語られているのに的確にこちらを刺してくるあの感覚。
デビュー作の「耳刈ネルリ」シリーズを読んだ時に衝撃を受けたあの『文章に力がある』とでも言うべき所がさらに洗練されて襲いかかってきて、序盤は数ページごとに休憩を入れていたくらいでした。
情景描写と心情描写をリンクさせて、流れるようにスムーズに「走っている」文章で高めてくこれこそ石川博品作品の真骨頂よ
— a-park@1日目J56a (@a_park) 2016年9月14日
メロディ・リリック・アイドル・マジックを読み返し、「好きな人がアイドルになってしまったら(略)死別するよりつらい。アイドルは選ばれし者しかなれなくて、死は誰もが行く場所だ」の一連のくだりの文章が冴えすぎていて震える
— a-park@1日目J56a (@a_park) October 26, 2016
好きな人がアイドルになってしまったら、テレビやBooble+の中にいて、会いに行けるアイドルで、でも会えなくて、死別するよりつらい。
アイドルは選ばれし者しかなれなくて、死は誰もが行く場所だ。
(P. 265)
軽妙な会話の掛け合いと、やたら精度の高い情景描写を通じた心理描写で基本回していったところでこういう異常に鋭く決まった叙情的表現が刺さってくるからたまんないんだよ石川博品の文章は
— a-park@1日目J56a (@a_park) October 26, 2016
作中で語られる『アイドル』は、現実で言うところのアイドルよりもっとアマチュア寄りの女子高生が女子高生の立場のまま活動していくものです。広義のガールズバンドと言っても良いかもしれません。
であるからこそ、「興業」としてではなく純粋に人前で歌い踊り観客を楽しませることを志向する彼女たちと、その情熱を理解して支えるマネージャーの彼、ふたりの主人公の純粋さのようなものが光るのだと思いました。