「ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード」感想
それは、こと「ゲームについて語る」となると、明らかにゲームの現状を把握していない発言や、一方的(ないし極めて主観的)な見地からの発言が、急激に増大する傾向があるということだ。 興味深いことに、普段は冷静で、畑違いの分野について見解を示すにあたっては下調べを怠らない専門家たちが、ことゲームについて語りだした途端、十年以上前の状況を前提とした分析をしたり、実体がどこにもないブームについてその社会的背景を推測したりと、いわば「勇み足」を連発してしまう。 (中略) 個人的には、これはゲームが持つ、本質的な強さを示しているように思う。ゲームには、識者をして「たかがゲーム」と感じさせる、驚異的な間口の広さがあるのだ。 (「はじめに」より)
「今」の「ゲーム」について、ありとあらゆる角度から切り込んだまさに総合解説というべき本でした。
本書で取り上げられている『18のキーワード』は以下の通り。
- ゲームと流通
- クラウドファンディング
- モバイルゲーム
- ブラウザゲーム
- ゲームと広告
- 東南アジアのゲーム市場・産業
- 現実世界に置かれたゲーム
- 実況・配信文化
- シリアスゲーム・ゲーミフィケーション
- アカデミックテーマとしてのゲーム
- electronic sports:デジタルゲーム競技
- 自作文化
- バーチャルリアリティ
- モバイルゲームのデザインと技術
- ミドルウェアとゲームエンジン
- コンピュータグラフィックス
- ゲームサウンド
- バックエンド技術
これらは(1)ビジネス (2)カルチャー (3)テクノロジー の三つの分野から選ばれたキーワードたちです。
つまり、 - ゲームを売る(ビジネス) - ゲームで遊ぶ(カルチャー) - ゲームを作る(テクノロジー)
この三つの方向から「ゲーム」への関わり方を解説しています。つまりそれはありとあらゆる方向から網羅していると言って良く、ここまで幅広いのはなかなかないかと。 「今」ということで発行当時(2015年)の最新のトレンドを取り上げておりますが、2017年初頭のいまでもまだ十分に通用していると感じました。
とはいえ18項目も扱っているため各項に割いているページ数がやや少なく、あくまでも概説以上のものにはなっていません。 多少なりとも知っている分野については目新しいことがなく、退屈な部分もあります。例えばアマチュア製作の同人ゲームと周辺文化を扱った「自作文化」の項など、俺自身が(ゲームでなく小説ではあるにせよ)同人活動に親しんでいるおかげで所与のことばかりでした。 しかし逆にまったく知らないことばかりで読んで蒙を啓かれる項ももちろんあり、たとえば「ゲームサウンド」の項などは録音した効果音とBGMをタイミングに合わせて鳴らせばゲームサウンドなど用足りるだろうと思っていたところにはとても勉強になりました。 18項目すべてについて詳しいと自負できるなら本書を読む必要は無いでしょうが、そんな超人はまずいないでしょう。
ありとらゆる角度から「ゲーム」を切り取る範囲の広さは大したもので、(やや)浅く広いことに価値があると言って良いでしょう。 読めば読むほど「ゲーム」がどれほどに巨大な存在か思い知らされる本でした。
「ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード」がたいへん良かったので感想記事を書いている。これを読むとTwitterで大量RTされるタイプの雑ゲーム語りの8割くらいを投げ捨てられるのでは
— a-park / 宇古木蒼 (@a_park) 2017年3月2日
「ゲームの今」で俺がもっとも目から鱗が落ちたのはサウンドについての項で、録音した音楽と効果音を適切なタイミングで再生するだけでしょ……と思っていた蒙を啓かれた
— a-park / 宇古木蒼 (@a_park) 2017年3月2日