偏読日記@はてな

本を読んだりゲームをしたり、インターネットの話をしたりします。小説も書きます。

「ナルキッソス3  Die Dritte Welt」プレイ途中感想

YouTube - ナルキッソス3rd'



「恋愛ゲームシナリオライタ論集30人×30説」での早狩武志記事執筆のため、現時点での最新作である「ナルキッソス3rd'」をプレイ中。死生観や終末医療をテーマとし、同一の舞台で4人のシナリオライターの連作という形式を取っているためライターごとの文体の違いやテーマの料理の仕方の差異が際立って面白いです。
全4本のシナリオ中、ごぉ氏が執筆している「死神の花嫁」 早狩武志氏が執筆している「メサイア」まで読み終わったのでプレイ途中の感想を書いてみます。

  • 「死神の花嫁」(ごぉ)

「不治の病に冒された恋人」という手垢のついたテーマに真っ向勝負を挑み、そして打ち勝った、実に優等生的なお話。
「ひまわり」「スタンドバイミー・スタンドバイユー」 そしてこの「死神の花嫁」と追いかけてきて、毎回どんどん上手くなっていているのをつくづく感じますね。ナルキッソス1・2での登場人物や舞台設定を無理のない範囲で拾っている(俺は1・2を未プレイなので詳細は判りませんが……)あたりも実に安定しています。
だが、それだけ手堅い反面、目新しさや衝撃は無いんですよね。十分に「面白い話」の条件を満たしているとは思いますが、何か一歩突き抜ける部分がなかった印象がありました。
……もっともこれは、次に読んだ早狩武志執筆の「メサイア」に衝撃を受けすぎたおかげでこんな風に思ってしまっているのかもしれませんけど。

この記事の冒頭で紹介したプレムービーや、パッケージの体裁、Webサイトの雰囲気。「全年齢向けノベルゲーム」を名乗りつつも、本作にギャルゲー的なものを感じる人は多いのではないでしょうか。色恋ベースのお話でなくとも、少なくとも女性キャラクターがある程度はメインになるお話が展開されるのだろうと。
だが、早狩武志氏が執筆した「メサイア」は、そんな俺達の予想(希望)を軽々と裏切ってくれます。ひたすらバイク好きの青年同士の友情物語がつづいて女の子が全く出てこないってなにこれwwww誰得wwww 
……あまりに予想外で思わず頭悪そうに草を生やしてしまうくらいに驚いてました。公式サイトでのシナリオ紹介でもきちんと表記されているし、まず早狩武志氏自身が日記で「女の子の出てこない話」と書いているので俺が情報を仕入れていなさすぎただけですけど。


だが、そんな驚きと揶揄の入り交じったような感情も、読み進めていくうちにすっかりどこかへ消え去り。気がつけば心底から感情移入している俺がいました。
前述の通り女の子は出てこないし華はまったくありません。小説用の文章をそのままノベルゲームにコンバートしたようなこれまでの文体からがらりと変わったぶつ切れの台詞主体の文章は読みにくいことこの上なし。それなのに引きこまれてしまうのはもう流石としか言いようがありません。細やかな心理描写を得意とする早狩武志氏のスタイルはラブストーリーに対象を限定するものではないということですね。


関連記事

ごぉ氏の処女作にして出世作である「ひまわり」の感想記事。思えばこれを書いたのが2年前で、そこから何とも遠くへ来たものです。

2008年秋の時点での早狩武志作品についての総評記事。改めて読み返すと自分の熱意がこわい。